研究概要 |
本研究は、動物の持つ柔軟な運動制御のための情報処理機構を、視覚的眼球運動を対象として明らかにしようとするものである。ヒトはいま自分が置かれている状況から次に起こることを予測して、次に起こすべき運動を準備しでいる。このような行動の予測的制御を調べるため、本年度は(1)視覚刺激から動きの情報が抽出されるメカニズム、(2)視覚刺激の動きの情報から眼を動かす信号へと変換する視覚-運動変換のゲイン調節機構を調べるための実験を行った。 (1)視覚刺激がどのように処理され、動きの情報が抽出されているのか明らかにするため、矩形波からその基本周波数成分を差し引いた波(Missing Fundamental, MF縞)の仮現運動刺激を用いて、サルの追従眼球運動について調べた。MF縞とは振幅が1/3,1/5,…と減少していく奇数調波(3f,5f,…)から構成される波である。この波を基本周期の1/4ずつ移動させると、刺激の動く方向とは反対の方向、即ち3f要素の動く方向に追従眼球運動が起ることが明らかになった。この結果は視覚刺激から運動を検出する機構が、視覚刺激をフーリエ変換して、その最大振幅をもつ調波によってドライブされる、時空間視覚フィルター的性質を持っていることを示している。 (2)視覚-運動変換のゲイン調節機構を調べるため、ヒトを対象とし、スクリーン上に小さな視標と視野全体に広がるランダムドット像を投影した。ランダムドット像を被験者が注視している視標を消してから短い期間(0.2秒程度)たってから動かすと、視標を消した直後に動かした場合に比べ、同じ動きでも比較的大きな眼球運動が誘発された。この結果は、動物が視標を固視している時には視覚-運動変換のゲインは抑制されていることを示していて、視覚-運動変換のゲインが動物の置かれている状況によりダイナミックに調節されていることを示唆している。
|