【目的】近年、抗菌薬の適正使用を推進し、耐性菌の出現防止や副作用予防、さらに治療効果を高めることを目標として、Antimicrobial Stewardship Program (ASP)が推奨されている。しかし、ASPにおいて何をもって抗菌薬適正使用が達成できたのかの評価法は一律でない。その中で「抗菌薬使い分け」を数値化することによりASPの効果を評価する手法として、antibiotic heterogeneity index (AHI)(Takesue Y et al : J Hosp Infect 2010)が報告されている。当院では病院全体を対象としたASPの活動を2006年9月から行っている。AHIの推移とAHIと耐性菌分離率の相関性をみることにより、抗菌薬使い分けの意義と、長期的なASP活動の効果を評価することを目的とした。 【方法】対象期間は2005年3月~2014年2月とした。抗菌薬の使い分けの指標は、カルバペネム、TAZ/PIPC、4世代セフェム+CAZ、キノロンの4系統における3ヵ月毎のAHIとし、3ヵ月毎の耐性菌の分離率とAHIとの相関性を検討した。 【結果】AHIは当初0.5前後を推移したが、2009年6月以降より目標である0.85以上を維持し、病院全体における抗菌薬の使い分けを達成することができた(AHI改善期 : 2005年3月~09年5月、高レベル維持期 : 2009年6月~14年2月)。AHI改善期では、AHIと緑膿菌の耐性率には有意の逆相関が認められた(耐性≧1系統 : 相関係数R^2=0.361 p=0.022、≧2系統 : R^2=0.316 p=0.036、≧3系統 : R^2=0.335 p=0.029)。しかし、使い分けを達成後の高レベル維持期間では、AHIと緑膿菌の耐性率に相関性は認められなかった。 【結論】抗菌薬の使い分けを目標とした全病院的なASPを行うことによって、使い分けの改善期においては緑膿菌の耐性菌発現抑制効果が確認された。一方、使い分けが達成された段階では、抗菌薬の使い分けは耐性率に影響しなかった。以上の結果より、多剤耐性グラム陰性菌対策としては、抗菌薬の適正使用だけでなく、伝播対策などの多面的な対策が必要であることが明らかとなった。
|