胆汁細胞診は膵・胆道癌の重要な質的診断法であり、顕微鏡観察により胆汁中の細胞の形態学的な異型の度合で癌か良性かが診断される。研究代表者らのこれまでの解析で、従来の判定方法では各細胞形態学的所見を異常と判断するこの異型度の基準は曖昧で、客観性に乏しいため、異型度の解釈の個人差を生じ、診断精度を低くする大きな要因の一つとなっていることが示唆された。また、胆管内上皮内腫瘍(BilINと略す)は胆道癌の多段階発癌過程における前癌病変として最近確立した概念で、癌病巣の周辺に高頻度に見られ、切除の対象となっている。胆汁中のこの細胞の存在は癌の併存が強く疑われ、診断上、重要な意義をもつと思われるが、いまだこの細胞に対する形態学的判定基準がないため、見落とされている可能性が高く、診断精度にも大きく影響していると考えられる。 本研究ではこれらの改善のため、まず、胆汁中の細胞集塊の構造に関する所見(核の不規則な重積、核の配列不整、不規則分岐集塊など)に対し、不整な構造とする客観的な基準を定義し、該当細胞集塊の出現率から異常所見と判断する閾値を解析した。得られた閾値はいずれの所見も高い感度と特異度を示した。この結果を英文の論文とし、現在、日本臨床細胞学会誌に投稿中である。続いて解析した個々の細胞の所見(核の大小不同、核腫大に伴う核同士の接触像、核形不整)についても同様の結果を得、昨年の上記学会春期大会で発表した。この結果についても、現在、英文で論文を作成中である。また、BilIN病変については、前癌病変も陽性を示す癌マーカーで免疫組織化学的に確認できた症例に対し、この病変に相当する胆汁中の細胞の形態学的特徴をまとめ、昨年の同学会秋期大会で発表した。 これらの解析により、個人差のない、客観性の高い細胞判定が可能となり、胆汁細胞診の診断精度は大きく向上するものと期待される。
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