研究課題/領域番号 |
16H01705
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小柴 健史 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60400800)
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研究分担者 |
河内 亮周 徳島大学, 大学院理工学研究部, 講師 (00397035)
田中 圭介 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20334518)
安永 憲司 金沢大学, 電子情報学系, 助教 (50510004)
ルガル フランソワ 京都大学, 情報学研究科, 特定准教授 (50584299)
松本 啓史 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル系, 准教授 (60272390)
小林 弘忠 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル系, 特任研究員 (60413936)
西村 治道 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70433323)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 量子計算 / 量子暗号 / 量子アルゴリズム / 計算量理論 / 暗号理論 / 分散計算 |
研究実績の概要 |
DQC1モデルは量子状態の初期化が容易でない量子計算を定式化した量子計算モデルであり,DQC1モデルの計算誤りを低減化する方法を新たに提案した。この手法を用いてDQC1モデルの古典計算による摸倣不可能性を示唆する計算量的帰結を与え,DQC1モデルは量子計算モデルとしては比較的弱いモデルでありながらも古典計算ではできないことを行える証拠を得た。対数領域限定の量子計算モデルについても,ある限定した計算モデルにおいて通常の多項式時間量子計算同様に計算誤りが低減化できることを明らかにした。これにより,マッチゲート計算の計算誤り低減化や対数領域限定のQMA(量子版NP)の通常の多項式量子計算との等価性を示すことができた。 通信計算量理論および分散計算の枠組みにおいて,データベース理論における二つのデータベースの結合を計算する問題などに対して古典プロトコルより効率的な量子プロトコルを構築した。分散計算の枠組みのCONGESTモデルに着目し,行列式など様々な代数的問題を従来のプロトコルより低いラウンド数で解けるプロトコルを構築した。この代数的なアプローチにより,最短経路問題など重要な問題に対するプロトコル計算量も改良した。 古典決定性鍵暗号化方式において,量子状態平文に対する暗号文を入手可能な攻撃者を考えた場合,攻撃者が暗号化後に平文レジスタにアクセスできれば,任意の方式を攻撃可能であることを示した。 ユニタリ演算は量子計算における基本演算であり,そのユニタリ演算識別問題は二つのユニタリ演算の候補のうちのいずれかが未知のユニタリ演算として与えられたときにその未知のユニタリ演算が候補のうちのどちらであるかを当てる問題である。この問題に対して,量子質問アルゴリズムの視点から研究を行い,二つのユニタリ演算を識別するのに必要十分な未知のユニタリ演算の数の緊密な上下界を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子コンピュータが実現される場合,計算能力が限定されたモデルが現実的であり,その代表的なモデルであるDQC1モデルや対数領域限定モデルにおいて,古典的コンピュータとの関係性が明確になりつつある。また,理論計算機科学における代表的な分野である分散計算においても量子プロトコルの優位性が明らかになるなど,新しい学問領域を創成するきっかけとなるような基本的成果も得られている。 また,暗号分野において量子力学的な影響を考慮した暗号理論が工学的にも求められるような状況になっており,そのための基礎理論として量子計算の能力を持つような敵対者に対する安全性を有するような暗号方式の可能性についてもある程度の知見を得ることができている。 上述のことは量子プロトコルの展開に関することであるが,量子計算の根源的な問題として,ユニタリ演算子識別問題を考え,その基本的な性質を得ている。これは,基盤技術についての再確認に相当し,プロジェクトの足元を強化する結果となっている。 以上のことから,プロジェクトとして順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度でもあり,当初計画通り順調に進展している。次年度以降も当初計画通りに研究を推進する。計算能力を限定した量子計算モデルに関する研究の進捗状況が若干早めに進んでいるので,計画を発展拡大させることも念頭において,研究領域間の相互連携の調整も図っていく。進捗は順調であるが,早めに進んでいるテーマと歩調を合わせるためにも,国内外の研究者と連携して研究を進めていくことも検討する。
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