研究課題/領域番号 |
16H01727
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60283470)
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研究分担者 |
月浦 崇 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30344112)
野村 理朗 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (60399011)
上田 祥行 京都大学, こころの未来研究センター, 特定助教 (80582494)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 探索行動 / 視覚探索 / 記憶探索 / 意思決定 / 神経基盤 |
研究実績の概要 |
(1)探索行動の比較による一般モデルの確立:採餌課題の構造をもつ視覚探索課題と、同一の理論枠組みで行動の分析が可能な意味流暢性課題を同一被験者に実施して、その比較を行う実験を開始した。視覚探索課題の調整のためのパイロット実験を経て、本実験のデータ収集を終えた段階である。自伝的記憶探索に関して、ネガティブな情動を喚起する自伝的記憶の探索が,時間とともに変容する機構について,健常若年成人と健常高齢者を対象とした行動実験から,健常若年成人では,自伝的記憶におけるネガティブ情動の強さはポジティブ情動と比較して時間的に速く減少することが認められるが、この効果は健常高齢者ではほとんど認められなかった。瞑想に関して、瞑想実践者を対象に、集中瞑想,洞察瞑想時の脳活動を測定した。集中瞑想では、腹側線条体と注意の切り替えに関わるセーリエンスネットワーク領域との結合性が上昇し、腹側線条体とデフォルトモードネットワーク領域との結合性が低下したのに対して、洞察瞑想では、被殻と、デフォルトモードネットワーク領域との結合性が低下した。 (2)探索行動における意思決定のモデル:単純化した探索課題で神経機構を検討するための準備として行動課題の検討を進めた。神経機構研究で用いられている単純な採餌課題と、時間割引研究で用いられる継時選択課題を作成してパフォーマンスを比較したところ、採餌課題では時間割引が生じにくいことを見出した。 (3)探索行動の変容メカニズム:日本人と北米人で視覚探索の仕方が異なることを発見した。この結果は、長期経験によって探索行動が変容することを示している。当該年度は、学習や経験による探索行動の変容メカニズムを明らかにするために、University of British Columbiaと共同で新たな実験を行い、複数の種類の探索課題を続けて行うと、探索行動が質的に変化することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度については,概ね順調に推移している.いくつか、当初計画に加えて新たな研究を開始しているものについて以下に述べる。自伝的記憶探索の研究では、記憶の想起ストラテジーの違いによる記憶探索の相違に関する実験について,現在準備を進めているところである.また,これらの記憶探索に関連する脳内機構の研究については,脳機能画像だけでなく脳損傷患者に対する研究手法も新たに追加することを計画しており,医療機関とその実施方法についての議論を進めているところである. 探索行動の意思決定モデルに関しては、当初の計画に加えて時間割引の問題を加えた研究に拡張している。時間割引の神経基盤に関する研究も多くあり、採餌行動の神経基盤の知見と慎重な比較検討を行い、仮説を設定する必要がある。 探索行動の変容については、学習や経験によって探索行動が変容することが示されたが、視覚情報の抽出・表現の方法、探索ストラテジーのいずれが変容しているのかについては明らかではない。特に、複数の種類の探索課題を続けたことによる探索行動の変化(短期的な経験による探索行動の変容)については、今後の検討が必要である。またこの実験は、日本人と北米人で、それぞれ異なる探索課題を行っており、文化による長期経験の影響と、他の種類の探索課題による短期的な経験の影響の交互作用についても、現段階では不明である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)探索行動の比較による一般モデルの確立:視覚探索と意味記憶探索の比較では、理論的分析を進めるとともに、個人間相関を検討するために協力者数を増やす。自伝的記憶探索では、情動の効果による自伝的記憶の変容を反映するFAB効果に関して,28年度に引き続き高齢者のデータの取得を進めると同時に,認知制御能力や性格特性,気分などの個人差によってFAB効果の違いが認められるのかについて,検証を進める予定である.また,自伝的記憶に関連する記憶探索については,新たに自伝的記憶の想起ストラテジーの違いによって異なる自伝的記憶の探索過程とその神経基盤に関する脳損傷患者に対する研究を開始すると同時に,同テーマに関する脳機能画像研究を行う予定である.瞑想研究では、これまでに実施した集中力を高める集中瞑想と、平静さを高める洞察瞑想の神経基盤の解明と、それらの神経基盤の解明のためのMRI実験について、現時点でのサンプルが12名であるため、継続して追加するとともに、同じく、瞑想者を対象として、感情喚起時に、感情に対して集中瞑想と洞察瞑想が及ばす神経活動の影響をMRIを用いて検討する。 (2)探索行動における意思決定のモデル:行動実験の結果を踏まえてMRI実験を計画しデータを取得する。並行して採餌的探索の意思決定モデルを構築して実験開始前に具体的な仮説を明確にする。 (3)探索行動の変容メカニズム:長期経験による探索行動の変容について、文化に特有の視覚情報(文化特有の文字体系、風景)に接している経験が探索行動を変容させる可能性を検討する。短期的な経験による探索行動の変容について、日本人と北米人で同じ探索課題を行い、探索行動の変容メカニズムを検討する。視覚情報の抽出・表現の方法、探索ストラテジーのいずれが変容しているのかという問いと、文化間比較による長期的経験と短期的経験の交互作用の効果に焦点を当てる。
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