研究課題/領域番号 |
16H01740
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷川 智洋 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特任准教授 (80418657)
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研究分担者 |
渡邊 克巳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20373409)
尾藤 誠司 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), その他部局等, 室長 (60373437)
広田 光一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (80273332)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バーチャルリアリティ / 感情・情動 / 認知科学 / 行動誘発 |
研究実績の概要 |
H28年度は,VRによって疑似的に身体反応を生成・提示する手法を提案し,構築するとともに,提案する行動誘発への可能性の評価を行った. まず,感情センシングを行うにあたり,これまで開発した動画像による感情センシング手法では困難であった,顔の向きや眼鏡の装着などによるロストへの対応や顔表情認識の高精度化を行った.本調査研究では,まず,安価で一般的になりつつあるデプスカメラを用い,日常的な仕様で想定される状況において,トラッキングエラーなく顔の輪郭情報や目,鼻,口のパーツ情報の認識が可能なセンシングシステムを実現した.また,原因帰属の操作を行うため,現実の作業中に提示を行う必要があり,ウェアラブル型のシステムの設計を行った.これらを用い,落涙という自身の身体が変化したように認知させることで,情動を誘発するかどうかを評価し,効果を検証した. 最後に,上記手法により生起された情動に対し,その原因を任意の行動を関連付ける手法を構築と短期的な評価を行った.多くの人間にとっては学習意思があってもなかなか継続することが難しい課題を題材とし,本手法により学習を継続を誘発できるかの検討を行った.被験者は,研究内容を知らない20代の男女学生10名であり,事前に,自信度やモチベーション,コミュニケーションへの関心についての10段階のアンケートを実施した.そのアンケート結果や性別が分散するように,コントロール群と講師の表情を笑顔に変形した群に分け,2週間の参加期間を設け学習を行ってもらった.関心が10段階中7段階と高くても参加回数は変わらず,10段階中4,5段階と関心の強さがどちらでもない参加者について大きく差が出る結果となり,提案ししている行動誘発の効果を示唆するものとなった.また,VRを用いた疑似的なルーティンの構築により失敗率に差が出ることも確認しており,情動による試験的な効果を検証できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度想定していた,情動二要因理論において,情動の認知には生理的状態の認知が必要であるとされている.生理的喚起の認知を引き起こす手法の提案と効果の検証,生起された情動に対し,その原因を任意の行動を関連付ける手法を構築,短期的な実証評価は,計画通りの実施と予備実験的なものとなったが可能性を示唆する成果を得ることができた. 提案手法や成果について,研究協力者として加わっていただいている東京医療センターの尾藤先生をはじめとして,東京大学医学部精神科医局,慶応大学病院神経内科などメンタルヘルスに関わる先生方との間で,様々な意見交換を実施してきた.その結果,人間の社会的な行動判断に影響を与える行動習慣の改善システムを構築可能であり,現在社会的問題になっている生活習慣病や認知症,鬱の予防など,共感知に基づく行動・習慣の変化によって国民生活の質の向上と健康寿命の延伸を図ることが可能である点で,社会的波及効果も大きいとの意見も得られた.現在,うつ病への認知行動療法との親和性が高いことから,情動的な側面からテクノロジーを使って判断の支援することによって,現在の属人性の高い診療や治療よる制限の克服が期待され,この調査研究をきっかけとして臨床応用に向けたコラボレーションを始めている.
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今後の研究の推進方策 |
ユーザの情動状態やその変化について,アンケートなどによる主観的な評価だけでなく,提案手法の効果を調査する実験設計を行い,情動喚起に伴って変化する行動を計測することで,より客観的に計測可能な評価も行った.今後は,さらに,個々の装置を用いた際のユーザの心拍数や心拍変動,皮膚コンダクタンス(発汗),脳波など情動の変化に深く関わる生理的指標の計測を通じて,定量的に評価することを検討している.以上の評価に基づき,提案手法の情動喚起効果および提示刺激の強度による行動変化の発生条件を精査し,適切な刺激提示手法や刺激強度を明らかにする.原因帰属の操作が確認されなかった場合にはその理由を調査し,提示刺激の可体験化および身体知覚変化の誘発に有効な刺激提示手法の改良に結びつける. また,短期的な行動誘発の実験を行ったが,実験期間中の参加人数や回数が十分伸びず,統計処理をするには十分なデータが得られなかったものの,提案ししている共感による行動誘発の効果を示唆するものとなっている.今回,構築したシステムは長期にわたって運用可能なシステムになっているため,今後長期的な実験と評価を行うことを計画している.
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