本研究の目的は,実世界との対応が重要なARコンテンツと,実世界の制約を超えた体験が可能なVRコンテンツとの間のシームレスな往来が可能な体験型展示手法を実現することである.実世界の身体の移動とバーチャル世界における仮想身体の移動の対応関係を変化させ,VRコンテンツ鑑賞中には実世界の制約を超えた移動・鑑賞を可能にしつつ,ARコンテンツへの鑑賞に切り替える際に空間的整合性が実現されるよう,実身体と仮想身体のずれを解消可能な複合現実型リダイレクション技術を確立する.具体的には,(1)実身体-仮想身体のずれを知覚させない仮想身体制御手法と(2)実身体-仮想身体のずれを解消する実身体誘導手法を開発した上で,(3)大規模実証実験で提案手法の受容性・有用性を検証する. 最終年度は,(1)として,バーチャル世界における身体であるアバタの表示方式の工夫により実身体と仮想身体のずれを気付きにくくさせることが可能なことを明らかにした.また,ドローンで撮影した映像など上下方向の移動を伴う映像を見る際に,実際の身体の移動量にゲインをかけて映像を見せても気付かない範囲を明らかにし,視点の高さ方向においても自由度を増したコンテンツ鑑賞体験を可能とした.(2)については,前年度までに開発した手法を改良し,実際のユーザの位置とシステム側で誘導したい位置との差分を元に,徐々にずれを解消可能な手法を実現した.以上を踏まえ(3)として,東京都現代美術館と共同で行った展示や文化庁メディア芸術祭長崎展等において実装したシステムを活用した展示およびAR/VRツアーを実施し,ARとVRを利用することで時空間を超えてその場所の持つ魅力を再発見できるコンテンツを多数の来場者に提供した.この展示・ツアーでのシステム利用者の反応を分析することで,提案システムの有効性を示した.
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