研究課題
H29年度には、前年度までに詳細な対比と年代モデルの確立が完了したIODP Exp. 346日本海掘削7地点について、各地点の完全連続層序の確立ならびに地点間対比を過去150万年間ないし300万年間について整理し、日本海第四紀堆積物の基礎的層序に関する4編の論文Irino et al., Tada et al., Sagawa et al., Kurokawa et al.として投稿した。これらの結果に基づき、各地点において堆積速度を高解像度で推定する事が可能となった。また入野は、船上計測のガンマ線減衰強度から堆積物の乾燥かさ比重を推定する換算式、堆積物の色から総有機物含有量を推定する換算式を導出した。これにより、日本海各掘削地点について、過去100万年間に渡り、1000年間隔で全堆積物フラックス、有機物埋没フラックスの復元が可能になった。入野はまた、U1425地点における>4 µmおよび<4 µm画分それぞれのXRDによる鉱物組成分析も行い、過去1000万年間のダスト供給源の変化の検討を行なった。王はU1425地点におけるESRを用いた風成塵供給源変動の復元を過去300万年間について行い、風成塵の供給源が40万年周期で変化している事、1.45Ma以降タクラマカン砂漠起源の風成塵の寄与率が増えた事を示した。XRFコアスキャナーによる主要・少量微量元素分析については、予定していた3地点のうち、残されたU1426地点の過去150万年間にあたる層序区間について、村山(研究分担者)が、高知コアセンターにおいてXRFコアスキャナーによる主要・少量微量元素ピーク強度の測定を行った。得られた結果は、関及び三武(研究協力者)がピーク強度に対して管球のaging効果の補正を行うことで、定量的なデータに編集した。特にBrについては、それが海成有機物の良い指標と成る事が示された。
3: やや遅れている
研究対象としたU1424,1425、1426の 3地点全てで、過去300万年間についての堆積速度が高精度、高解像度で計算され、これに船上計測のガンマ線減衰強度から推定した堆積物の乾燥かさ比重を乗じる事によって、各地点で過去300万年間に渡って、1000年間隔で質量堆積速度を求めることが可能になった。また、XRFコアスキャナーのデータのうち、特にBrが海成有機物の代替指標と成る事も示された。この部分は予定通りの進捗である。一方、XRFコアスキャナーによる分析は本年度で完了する予定だったが、U1426地点の150m分が残り、予定よりやや遅れている。ESRを用いた風成塵の供給源変動復元を過去300万年間について焼く2万年間隔で行った結果、それが~100万年および~40万年スケールで大きく変わる事がわかった。この結果を~1000年スケールにまで拡張するために、XRFコアスキャナーの分析結果を用いた代替指標の開発を行なう筈だったが、そこまで手が回らず進んでいない。また、風成塵の含有量推定については、粒度分析結果を元に推定する方法を検討している。底層水の酸化還元度変動の復元については、一部の暗色層について、Mo, U, Vの濃集傾向が見出され、特にMIS 2, 5, 6においてMoの濃集が顕著であることが示されたが、深層水循環モードとの対応関係を明らかにするには至っていない。以上のように、計画の一部に遅れが出ているが、計画を一部変更する事で、対応可能と思われる。
H30(最終)年度は、前年度にやり残したXRFコアスキャナー分析を行い、ピーク強度補正を行なった後、Br, K, Rb, T, Zr, などのピーク強度比とESRに基づいた風成塵供給源相対比の関係を調べ、風成塵供給源指標の確立を目指す。ESRに基づく風成塵供給源の数10~100万年スケールの変動が予想以上に大きく、古気候学的にも意義が大きい可能性が高くなったため、記録の解像度を上げる代わりに、700万年前まで伸ばす。また、粒度を元にした風成塵含有量の推定については、篩による珪藻殻の除去を行なった上で粒度分析を行う。また、これまで有機物含有量が海洋表層における生物生産性を通じて東アジア夏季モンスーン強度を反映すると考えて、全有機炭素含有量あるいは色(明るさ)をその指標と見做していたが、水深のことなる複数地点における海成有機物の埋没フラックスとその時代変化を比較し、その妥当性を検証する。また、底層水の酸化還元度とその時代・空間変動の復元については、異なる元素組成を持つ幾つかのコアについて比較を行い、深度方向の底層水の酸化還元環境の変化を明らかにする。
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