研究課題/領域番号 |
16H01777
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
篠原 厚 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60183050)
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研究分担者 |
吉村 崇 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 教授 (90323336)
二宮 和彦 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90512905)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 環境放射能 / 放射化学 / 放射線計測 / 化学分離 / 放出模擬実験 / 炉内事象 / 微量元素分析 |
研究実績の概要 |
本研究課題において設定した、(1)炉内事象化学模擬実験、(2)核種運搬経路実験、(3)微量・難測定放出核種の環境分布測定、の3つのテーマについて、それぞれ進展が得られた。 (1)炉内事象化学模擬実験:福島第一原子力発電所の事故においては、不溶性の粒子として放射性核種が放出されたことが知られている。この粒子生成過程に注目し、本研究ではこれらの粒子の成分の分析と、室内実験でこれらの粒子の生成を実施した。これまでに環境中で見つかっている粒子と非常に良く似た粒子を生成することに成功している。粒子に微量に含まれる金属元素の含有プロセスについても検討し、金属元素を導入することに成功した。 (2)核種運搬経路実験:実際に放出された放射性核種の原子炉建屋内、環境中での運搬経路を明らかにするために、人工エアロゾル発生装置の開発とともに、環境中の不溶性粒子の分布から不溶性粒子の放出過程についての考察を行った。本課題では、不溶性粒子の分析により、少なくとも3種類の不溶性粒子が存在することを明らかにしており、テーマ3の研究成果とあわせることで、それぞれの不溶性粒子がどの原子炉から、どのタイミングで放出されたのかについて検討を行った。 (3)微量・難測定放出核種の環境分布測定:福島第一原子力発電所近隣の未除染地域において本プロジェクトの初年度に土壌サンプリングを実施した。本年度はこの試料のストロンチウム分析を進めた。これにより放射性ストロンチウムの移動に関する知見が得られ、特に放射性セシウムに比べて放射性ストロンチウムの環境中の移動は早いことが明らかとなった。また、土壌試料からいくつかの放射性粒子の分離を行い、これらのストロンチウム分析を行った。テーマ2で指摘したようにいくつかの種類の不溶性粒子の分析を行ったが、得られた放射性ストロンチウムの量は、土壌で得られたSr/Csとおおよそ一致することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ(1)においては、放出された化学形態での放射性物質の室内生成実験を実施した。これまでの成果として環境中で発見されたものと非常に良く似た粒子の生成に成功していたが、より微量な元素の存在状態やそれらの元素の導入実験を行い、環境中で見つかっている放射性粒子とかなり近い組成のものを作ることに成功した。 テーマ(2)に関して、環境中に存在する放射性粒子の分布や土壌中に存在する全放射能に占める放射性粒子の放射能の測定を行った。特に原発近傍で採取された土壌試料に注目して、数十の放射性粒子を取り出し、電子顕微鏡や蛍光X線分析、さらに放射能測定からこれらの粒子を系統的に分類した。これらの一部については、過去に報告された粒子との類似性も見られたが、これまでに見つかっていないタイプのものも見つかった。これらの粒径や風向き、また水素爆発のタイミングなどから、放出タイミングについて議論を行い、それぞれの放射性粒子がいつ放出されたかの仮説を立てた。 テーマ(3)については、福島第一原子力発電所近隣において、初年度に実施した帰還困難区域を中心として100箇所程度で土壌調査で得た試料について分析を行った。今年度は放射性ストロンチウムに注目し、原発周辺の様々な方向で採取した試料について分析を行い、放射性ストロンチウム移動度について明らかにした。土壌に含まれる有機物の量との相関を調べ、また放射性セシウムの移動度との比較を行った。おおむね放射性ストロンチウムは放射性セシウムより環境中の移動が早いことが明らかになった。また放射性粒子に含まれる放射性ストロンチウムの分析を進めた。いくつかのタイプの放射性粒子について分析を行ったが、予想とは異なり、タイプが違ってもSr/Cs比はほとんど同じであることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
テーマ(1)については、これまでの研究で、炉内で生成した放射性粒子の生成模擬実験について一定の成果を得ることができた。その生成過程について良好な再現実験ができているといえる。今後はより微量な元素に注目した模擬実験を実施する。 テーマ(2)について、これまで多くの放射性粒子を発見、分離し、その性状を明らかにしてきた。しかし放射性粒子の環境中の分布については十分理解が得られておらず、どの方角やどの距離に放射性粒子が多く存在しているのかについて、より詳細な研究が必要であるといえる。そのため、今後は放射性粒子のインベントリー決定を目指して研究を実施し、事故時の放射性粒子の運搬経路について明らかにする。 テーマ(3)に関して、これまで原発周辺で採取された土壌試料について、セシウムの分析と一部についてはストロンチウムの分析を行うことができた。今後はストロンチウムの分析をより進めていくとともに、アクチノイド元素の分析について推進していく。これらの微量元素の分布は、事故時の放射性物質の放出過程の解明、事故時の炉内環境の推測において非常に有効である。
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