研究課題/領域番号 |
16H01782
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
鈴木 聡 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90196816)
|
研究分担者 |
丸山 史人 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30423122)
野村 暢彦 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60292520)
渡部 徹 山形大学, 農学部, 教授 (10302192)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 薬剤耐性遺伝子 / 環境微生物 / 抗生物質 / 暴露リスク / バイオフィルム |
研究実績の概要 |
耐性遺伝子生態:貧栄養な水環境での多剤耐性遺伝子の伝達および残存性は不明である。初年度は、貧栄養条件下での遺伝子水平伝達(HGT)を調べた。その結果、供与菌と受容菌双方が貧栄養の状態ならHGTは起こらないが、供与菌が高栄養状態にあればHGTは1E-8~1E-5の頻度で起こり、栄養の添加で1E-3以上に復活した。これは、供与菌活性が高いと水環境でのHGTは十分起こることを示唆する。伝達因子遺伝子の発現定量でも証明された。 ゲノミクス:ブタレンサ球菌は一部の系統が高病原性だが、種内のゲノム多様性と病原性の関連は不明である。初年度は、多様な系統株のゲノム配列を取得し、薬剤耐性遺伝子を含む病原因子の分布、可動性遺伝因子およびそのCRISPR, RM, TA等の防御システムに着目して大規模比較ゲノム解析を実施した。その結果、防御システムはislandではなく、一箇所を複数の防御システムが奪い合うdefines locusの存在を明らかにした。defense locusに挿入されているdefense systemによって、クラスター化する系統を説明できた。すなわち、defense locusが種内多様性を駆動するという新たな仮説を提示した。 バイオフィルム研究:初年度は、海洋でのバイオフィルム形成の条件検討を行った。各種基質でのバイオフィルム形成量の違いが分かった。また、形成されたバイオフィルム構造の高次でのイメージング解析に成功した。以上、水圏試料でのバイオフィルム菌群の動態解析の基盤構築ができた。 リスク評価:都市下水処理プロセス5カ所で水とバイオフィルムから157株の緑膿菌を得た。6種の抗生物質に対する耐性では64株がいずれかの抗生物質に耐性を示した。下水処理で緑膿菌の濃度は低下するが,ベータラクタム系に対する耐性率は上昇した。これらの調査結果から,皮膚感染のリスク評価を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
環境の耐性菌・遺伝子の生態研究では、環境での遺伝子水平伝達、ゲノミクス、バイオフィルムの項目すべてで一定成果がえられ、加えて、前年までに採取した試料を用いて、アジアの淡水から沿岸にかけての広範囲に分布するサルファ剤耐性遺伝子の定量測定と、淡水から海水にかけての群集組成変化を明らかにできた。また、ゲノミクスでは、2種の新規遺伝子(マクロライド耐性)を保有する海洋細菌の全ゲノム解析を行い、ゲノムのICE上にカセットとしてコードされることを明らかにできた。これらは鋭意論文を作成中である。さらに、バイオフィルム中の耐性緑膿菌の測定から、皮膚感染リスクの評価を行った。これらは初年度の計画以上の成果であり、次年度以降への発展が加速された。今後の本プロジェクトの予備的成果としては十分であると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
マイクロコズム実験系での遺伝子伝達の定量的解析を進める。また、ゲノム中に存在する耐性・病原遺伝子の獲得機構、および細菌群集での拡散機構を解析する。リスク評価では、暴露リスクが起こりうるポテンシャルを考慮して数理モデルの開発に着手する。
|