研究課題
昨年度分析法を確立したハロゲン化代替難燃剤のデカブロモジフェニルエタン(DBDPE)、ビストリブロモフェノキシエタン(BTBPE)、そしてデクロランプラス(DPs)に加え、本年度はリン酸エステル難燃剤(PFRs)について生体組織に適用可能な分析法の開発を試みた。生体に由来するマトリックス除去が不可欠となるため、環境試料の前処理法として報告例のあるSep-Pak C18とOASIS HLBを検討した結果、分析した11種のPFR化合物のほとんどが低い回収率を示した。そこで、アミノプロピル基結合型担体のISOLUTE NH2を用いて検証したところ、比較的良好な回収率を示したが、カートリッジ由来のブランクピークおよび一部の物質ピークに干渉が認められた。現在、活性炭とアミノプロピルの二層で構成されるENVI-Carb Ⅱ/PSAを用いて、ブランクおよび干渉ピークの軽減を試みている。また、野生鳥類を対象に有機ハロゲン化合物による汚染実態を調査した結果、既存POPsやPBDEsだけでなくHBCDsもほぼすべての検体から検出され、とくに魚食性種が高値を示した。ハロゲン化代替難燃剤も分析した鳥類組織から検出され、BTBPEとDBDPEは検出頻度および濃度も低いことから環境への負荷は少ない一方で、DPsは検出率が高く食性間の濃度差も認められていないことから、環境汚染と野生鳥類への曝露は進行していることが推察された。さらに本年度は、電気・電子機器廃棄物(e-waste)処理場の土壌に残留する有機ハロゲン化合物のスクリーニング分析を試みた結果、200成分以上のピークが観測されe-wasteに混在する有機ハロゲン化合物が不適切なリサイクル処理により直接環境中に排出されているだけでなく、それらの構造類縁体 (分解物) やダイオキシン類が非意図的に生成していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
代替難燃剤であるPFRsの分析法に関しては、3種のカートリッジによる前処理法を生体試料に適用した結果、カートリッジ由来のブランクピークおよび干渉ピークが認められたが、現在、活性炭とアミノプロピルの二層で構成されるENVI-Carb Ⅱ/PSAを用いて軽減を試みている。新規POPsおよびハロゲン化代替難燃剤については、多様な野生生物種の分析が順調に進んでいる。昨年度分析した鯨類からはハロゲン化代替難燃剤が検出されなかった一方で、本年度対象とした野生鳥類からはDPs、BTBPE、DBDPEがそれぞれ分析した検体の68%、24%、3%で検出された。BTBPEとDBDPEは、検出頻度だけでなく濃度も低いことから環境への負荷は少ないことが推察された一方、DPsは検出率が高く食性間の濃度差も認められていないことから、陸域の環境汚染と野生生物への曝露は進行していることが考えられた。さらに本年度は、GC-QMSのEI モード (m/z 100-600, 400-900) とNCIモード (m/z 35, 37, 79 and 81) によりe-waste処理場の土壌に残留する有機ハロゲン化合物のスクリーニングを実施した結果、e-wasteに混在する有機ハロゲン化合物が不適切なリサイクル処理により直接環境中に排出されているだけでなく、それらの構造類縁体 (分解物) やダイオキシン類が非意図的に生成している可能性を提示した。GC-NCI-QMSでは微量成分や構造未知物質の検出・同定は困難であったため最終年度は、GCxGC-HRToFMSを用いた高感度分析法の開発・検討に着手し、有害化学物質の網羅的スクリーニングと起源解析を試みる予定である。
代替難燃剤であるリン酸エステル系難燃剤(PFRs)の前処理法の改良を進め、生体試料に適用可能な分析法を確立する。また野生動物種を対象に、新規POPsおよびPOPs代替物質の蓄積特性、とくに経年変化を解析することに加え、臓器・組織の抽出液からin vitroレポーター遺伝子アッセイを用いて核内受容体のアゴニスト活性を評価する。さらに、これら汚染物質の主要な発生・集積源と考えられる途上国の汚染と網羅分析によるスクリーニングを展開する。これらの研究を展開し、研究を総括する。平成30年度における課題の詳細は以下の通り。1.分析法の開発 :PFRsの分析に関して、生体組織に由来するマトリックスの除去が不可欠となっている。昨年度検討した3種類のカートリッジは除去効率が低かったため、本年度は活性炭とアミノプロピルの二層で構成されるENVI-Carb Ⅱ/PSAを用いた前処理法を検討し、高精度分析法の確立を目指す。2.生物蓄積性の解明:生物環境試料バンク(es-BANK)に保存されている過去約40 年にわたる生物試料を化学分析に供試し、過去から現在に至るPOPs関連物質汚染の歴史変遷を復元するとともに汚染の将来を予測する。。3.環境・生物試料に残留する化学物質の網羅的スクリーニング:途上国のe-waste処理場で採取した環境試料に残留する化学物質の網羅的スクリーニングを、GC×GC-HRTOFMSを用いて実施する。4.バイオアッセイによる活性評価:野生動物の臓器・組織から得た抽出液を調製後、アリル炭化水素受容体(AhR)のアゴニスト活性が検出できるin vitroレポーター遺伝子アッセイに供試し、応答値を測定することでダイオキシン類様活性を評価する。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 5件、 査読あり 12件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 13件)
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