研究課題
福島県太田川上流における河川水文水質調査結果を用いた発生源解析から、河川水中の溶存態Cs-137濃度を形成する主要因が堆積有機物(リター)からの溶脱成分であることを明らかにした。また、森林リター浸出水のモニタリング方法を検討し、時空間変動を観測した。さらに、太田川水系横川ダム湖で採取した底泥コア試料を用いた底質環境制御下での溶出実験により、Cs溶出速度は現地の夏季の環境に近い嫌気系・水温20℃の条件で最も大きくなることを明らかにした。農地・ため池については、平成29年度より通水を開始した、帰還困難区域内の大柿ダムに由来する農業用水中の放射性Cs濃度のモニタリングの開始と、下流の実証栽培地区の栽培後の玄米中の放射性Cs濃度データを収集し、農地・農業用水に係わる中長期的なモニタリング・対策の戦略に必要なデータを取りまとめた。福島第一原発事故後に本課題参画機関が実施した環境中の放射性Cs測定データの集約・整理と夏季に東日本広域を対象とした67地点での河川水調査を実施し、溶存態Cs-137濃度はすべての地点で1Bq/L未満であり、10mBq/Lを下回る地点が大部分を占めた。また、集水域のCs-137平均沈着量との間に有意な相関が確認された。初期汚染状況の推定を目的として、福島県を中心に初期データの解析を行った。また環境省サンプリングデータを用い、河川底土のデータの粒度補正により再解析を継続して行うことで、粒度補正のみで懸濁態Cs濃度評価が一定程度の精度で可能になるとともに,溶存態放射性Cs濃度推定の可能性が示唆された。今後の水中の低濃度の放射性Csのモニタリングのあり方に関する研究会を開催し、環境省とも内容の共有をはかった。また、水中の放射性Csのモニタリング手法に関して、各手法の特徴(コスト、精度、スピード等)を整理し、目的に応じた適切なモニタリング手法の選定方法を検討した。
2: おおむね順調に進展している
戦略的環境モニタリングに関しては、これまでの調査データを活用した解析から森林流域からの溶存態放射性セシウムの流出メカニズムが特定できたこと、当初予定通り底質環境制御を可能とする底泥溶出実験システムを用いた実験を行い、溶出メカニズムの定量評価が図られたことから、計画通りに進捗したと判断した。また、農地・ため池を対象としたモニタリングについても、避難指示解除区域に新たに設置した試験地でのモニタリングによるデータ収集が推進され、計画通りの成果が上げられたと考えられる。原子力災害時の環境モニタリングデータの収集・整理についても、参画機関間の連携の下、既観測データの集約と整理作業のみならず、広域水質調査を共同で実施する等予定通りの進捗が図られた。初期試料を用いた初期汚染状況の推定については、初期データの解析が予定通り進捗し、その結果、事故後初期の河川水中の溶存態放射性セシウム濃度の推定にある程度目途がついたと言える。コンパートメントモデル構築と放射性物質動態の再現計算に関しては、コンパートメントごとに予定通りモデルの構築が実施できた。中長期的な水環境におけるモニタリングのあり方に関する検討会についても、予定通り開催するとともに、モニタリングプランの提案に向けた課題の抽出とその解決に向けた作業が進んだ。
戦略的な環境モニタリングに関しては、山地森林域と農地・ため池のいずれのモニタリングについても継続実施することでデータの集積と解析の充実化を図る。特に、ダム湖底泥からの放射性セシウム溶出特性については、別なダム湖底泥を対象とした室内実験を行い、溶出に対する底泥の性質の違い等、溶出メカニズムの詳細解析を行い、コンパートメントモデル構築に反映させる。原子力災害時の環境モニタリングデータの収集・整理については、広域水質調査結果を含め参画機関間で検討を重ね、解析方法の開発・適用を含めデータの高次化に注力する。中長期的なモニタリングプランの提案については、本課題参画機関を中心にワーキンググループを立上げ、これまでの検討結果を踏まえプラン原案を作成する。さらに国内の有識者を招いた検討会を開催し、上記原案の検討とそれを踏まえたモニタリングプランの作成と環境省への提案等公開を図る。初期試料を用いた初期汚染状況の推定ならびにコンパートメントモデル構築と適用に関しては、いずれも解析ならびに適用作業を進めるとともに、その結果をとりまとめる。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 8件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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