研究課題/領域番号 |
16H01792
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
仲岡 雅裕 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (90260520)
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研究分担者 |
栗原 晴子 琉球大学, 理学部, 助教 (40397568)
藤井 賢彦 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (60443925)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海洋酸性化 / アマモ場 / 緩和機能 / 操作実験 / 生態系モデリング |
研究実績の概要 |
アマモ場は光合成により二酸化炭素を吸収するため、海洋酸性化を緩和する機能がある。本研究では、アマモ場の海洋酸性化緩和機能の大きさと空間的な影響範囲を明らかにすると共に、その効果の海洋生物群集への影響を評価する。この目的を達成するため、1、北海道東部の環境条件の異なる複数のアマモ場でpH, CO2濃度の連続観測を実施し、2、生態系モデルにより緩和機能の影響範囲を評価する。また、3、現場のpH・CO2濃度の変動を再現したメソコズム実験により、緩和機能が生物群集に与える影響を検証し、4、以上の結果を取り入れた統合解析により、アマモ場生物群集の動態に関する将来予測を行う。
初年度である平成28年度は、厚岸湖においてpH, CO2濃度の連続観測を開始し、アマモ場におけるpHが沖合よりも著しく、また沿岸域に特徴的な日周変化を示さないことを明らかにした。なお、夏季から秋季の観測については、平成28年夏以降の北海道地域への台風の頻繁な接近により定常状態におけるデータが取得できなかったため、平成29年度に実施した。これらの観測から、厚岸湖のアマモ場のpH, CO2濃度の変動には、アマモによる光合成・呼吸のみではなく、厚岸湖の流動環境が大きく関わっていることが予測されたため、生態系モデルについて厚岸湖・厚岸湾の流動を考慮したモデルを作成することを決定した。既存の窒素循環をベースとした流動・生態系モデルを炭素循環用に発展させる方法で基本的なモデルが完成した。また、メソコズム実験については、小型水槽でまず海草葉上に生息する巻貝類を対象とした二酸化炭素と水温の操作実験を行い、海洋酸性化が巻貝類に与える影響が、水温および季節により大きく変動することを明らかにした。その成果を踏まえ、多種系で実験を行うためのより大型の水槽施設の設計を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外におけるpH, CO2濃度の連続観測については、平成28年夏季から秋季の北海道地域への台風の頻繁な接近により、厚岸湖の定常状態におけるデータが取得できなかったため、平成29年度に実施した。この結果、その後に予定していた操作実験のデザイン設計に遅れが生じたが、その代わりに、pH, CO2濃度の変動に関する経年変化、および定常時と非定常時の動態の違いに関する貴重なデータを得ることができ、操作実験および生態系モデル作成に関して、現実を反映したより有効な計画作成に結び付けることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、厚岸湖において連続観測の結果を踏まえた多種系の操作実験システムの開発、および二酸化炭素動態を表す生態系モデルの開発を進める。 平成30年度は厚岸湖で、pHの野外観測を継続し、異常気象時を含めた時間的変動について、長期データを集積するとともに、周辺環境条件の異なる道東の他のアマモ場に新たな比較検証サイトとして設定し、季節的な観測を開始する(いずれも最終年度まで継続)。海水流動・生態系モデルについては、厚岸湖で作成されたモデルについて、試行シミュレーションを行い、上記海洋観測による精度検証を通じて、モデルの精度改良を行う。操作実験については、室内水槽およびメソコズムを用いた実験について、アマモ、付着藻類、無脊椎動物の3種系を用いた実験を開始する。また、野外において二酸化炭素分圧を操作する実験について、新たに開発された野外操作実験システムの試行運用を兼ねた予備実験を開始する。 平成31年度以降は、海洋観測を継続するとともに、新たな比較対象観測サイトにおける生態系モデルの作成を行う。操作実験については、野外での多種系における実験を進める。 以上の成果を統合的に解析することにより、最終年度までに、環境条件の異なる複数のアマモ場において、気候変動から予測される海洋酸性化のシナリオ下での生物群集構造の変動を予測する。
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