研究課題/領域番号 |
16H01795
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
本間 格 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90181560)
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研究分担者 |
笘居 高明 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80583351)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / ダイヤモンド / 水熱電気化学 / 超臨界流体 / コプロダクション |
研究実績の概要 |
地球温暖化対策の本質は化石燃料から排出される二酸化炭素のゼロエミッション化およびカーボンニュートラル循環の構築である。 本基盤研究Aでは①水素と②有価な機能性ナノ炭素材料をゴミやバイオマス等の安価炭化水素原料から同時製造(コプロダクション)することにより②の経済的利潤を①に還元することで水素の安価量産化を可能とすることを目的としている。原料炭化水素中の炭素を従来のガス改質の様に二酸化炭素として排出するのではなく、経済的利潤が得られる機能性炭素材料として固定化・循環することで、トータルシステムとして、社会的課題である水素製造の低コスト化と、水素製造時の二酸化炭素のゼロエミッション化を実現する、画期的な炭素循環コプロダクション型水素製造技術を開拓する。特に多元研・本間研の独自技術である水熱電気化学法を用いて高温・高圧の亜臨界水状態で炭化水素原料を溶かした水溶液を電気分解することにより水素とダイヤモンドなどの高付加価値炭素のコプロダクションを実現する。平成28年度は上記目的実験を実施するための高温高圧対応の電気化学槽を設計、購入して装置稼働と予備実験を行った後、本研究開発の目的である亜臨界水状態でのカーボン材料電解実験を行った。白金基板上にダイヤモンドペーストを塗布してダイヤモンド種を付着させ1000℃で10分間加熱することにより固定化して陽極とした。負極白金基板を用いて330℃、13MPa、3.5Vにて電気分解を30分行ったところダイヤモンドが生成した。このように水熱電気化学法でダイヤモンドを合成した例は過去になく世界初の合成に成功した。陰極では水素が同時に生成しているはずなので、その生成量や収率を今後検討していく。本研究開発で目標としている電気化学分解による水素とダイヤモンドの同時製造の実証:POF(proof of Concept)に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
詳細なダイヤモンドの合成条件検討を行っている。亜臨界水の物理化学状態は温度により大きく左右されるので、本年度の研究では270℃、300℃、330℃、350℃、370℃の臨界点以下の温度範囲で電解槽水溶液の温度を変化させ、また白金両電極に印可する電圧も1.3V, 2V, 3.5V, 5V、また電解合成時間も1min, 10min, 30min と変化させてダイヤモンド合成の最適条件を検討した。本年度の実験では330℃、3.5Vの条件がダイヤモンド合成に最も適していることが判明した。ダイヤモンド種結晶のサイズはTEM観察の結果50nm程度であった。他方、30分の電解合成後は多くは1μ程度に結晶成長が観察され、さらに2μ程度の大きなダイヤモンド結晶も観察された。330℃で水熱合成したダイヤモンドではラマン分光解析により1330 cm-1のシャープなDバンドが明瞭に観察され高結晶性のダイヤモンドが合成出来ていることが明らかとなった。また印可電圧は2V以上でシャープなラマンDバンドが観察され高結晶性ダイヤモンドが合成されていることが判明した。5Vに印可電圧を上げると逆にダイヤモンドの結晶性は下がることも判明した。また、カーボン原料としてギ酸、酢酸、プロピオン酸、エタノール、樟脳など様々な水溶性炭化水素を用いた結果、酢酸が最もダイヤモンド合成に適していることが判明した。本年度の研究成果として水熱電気化学法により世界で初めてダイヤモンドの合成に成功した。さらに陰極で水素が生成しているので本研究目的である水素とダイヤモンドのコプロダクションを実証したことは大きな成果と言えるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により水素とダイヤモンドのコプロダクションを実証したことは大きな成果である。また、330℃の亜臨界水状態が最も適した温度であり、印可電圧も3.5Vで良いこと、さらにカーボン原料としては酢酸が最も適していることなどダイヤモンド水熱電解の最適条件を明らかにすることが出来た。今後は陰極での水素発生量を定量的に調べてその収率を求めることにする。水素とダイヤモンドのそれぞれの合成収率を求めることにより酢酸等のカーボン原料がどのくらいの収率で水素とダイヤモンドに変換されるのかを定量的に検討して、本研究における水熱電解法の効率、利点並びに実用性を検討する。さらに収率を上げるプロセスを検討したい。ダイヤモンド種結晶の種類や密度、基板白金の表面状態、水溶液への塩などの添加による伝導性制御の効果、酢酸以外のカーボンソースの検討(例えばギ酸など)を行いさらに高品質のダイヤモンドが大量に合成できる水熱電解プロセスを構築する。二酸化炭素から合成可能なギ酸からダイヤモンドと水素のコプロダクションが出来るなら二酸化炭素を放出しない水素製造と炭素循環システムが完成するので温暖化対策の有効な資源循環プロセスの構築が視野に入る。
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