研究課題/領域番号 |
16H01797
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
南齋 規介 国立研究開発法人国立環境研究所, 資源循環・廃棄物研究センター, 室長 (80391134)
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研究分担者 |
茶谷 聡 国立研究開発法人国立環境研究所, 地域環境研究センター, 主任研究員 (40394837)
加河 茂美 九州大学, 経済学研究院, 教授 (20353534)
金本 圭一朗 信州大学, 学術研究院社会科学系, 講師 (20736350)
東野 達 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80135607)
近藤 康之 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (80313584)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 構造経路分析 / 排出インベントリ / 感度解析 / 炭素粒子 |
研究実績の概要 |
本年度は,世界多地域間産業連関モデルであるEoraに対するPM2.5の一次粒子と前駆物質に関する部門別排出量データの搭載方法について検討を進めた。特に,中国における家庭起源の一次粒子の排出量とその空間分布の推計手法を精査し,Eoraによる産業連関分析を通じて家計起源の排出量が産業部門である内生部門に対して過大に影響することを回避した。気象モデルWRF(Weather Research and Forecasting Model)と大気質モデルCMAQ(Community Multiscale Air Quality Modeling System)から計算されるPM2.5の大気中濃度をEoraの部門別排出量との定式化に向け,主要国の排出量の変化による大気中濃度への影響について試行的な計算を開始した。一方,PM2.5による健康被害の視点からアジアのバリューチェーンの構造を解析するため,PM2.5の大気中の移流を考慮したSPA(Structural path analysis)手法を開発し,アジアの9カ国を対象に一次粒子の黒色炭素と有機炭素粒子を対象とした事例研究を行った。中国の農業関連部門と交通部門が対象のアジア地域において,炭素粒子に起因する健康影響の主要な発生経路であることを定量的に特定したことに加え,当該手法が環境中で物理的に移動する汚染物質に対して,サプライチェーン中の主要発生経路を特定する上で有効な方法論であることを示した。ただし,二次粒子のような前駆物質の大気中の反応により生成される物質に対する適用には更なる方法論の検討が必要であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度のため参画研究者全体での会議を複数回行い,研究の方針の確認と重点化するべき独自性について議論を深めつつ進捗状況について研究者間での共有を図った。研究課題の一つであるPM2.5分析用多地域間産業連関モデルの開発では,Eoraに搭載する一次粒子および前駆物質の部門別排出量を含む環境サテライト勘定表の構造とその構築に利用するデータの種類と特徴について十分に考察を深めた。そのため,中国の家計起源の排出量の分離に注力しながらデータ整備に着手することができ,分析精度の向上に加えて作業の効率化にも有益であった。気象モデルと大気質モデルによるPM2.5の濃度計算については,計算機の負荷と時間的制約を踏まえて,モデルの空間分解能と地理的範囲の検討を行った。アジアの主要国を包含する地域を対象に計算事例を積み上げながら適正化を図る方針とし,研究の進め方については柔軟性がある状況である。バリューチェーンの構造解析手法については,既往研究のデータを活用しながら,方法論の開発だけでなくアジアの9カ国を対象に実証分析を実施し,その成果を国際学術雑誌に掲載することができた点などを鑑みると,研究は概ね順調に進捗していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
アジアのバリューチェーンを包含するPM2.5分析用多地域間産業連関モデルの開発を引き続いて行う。 バリューチェーンを記述するための多地域間産業連関モデルはEoraを基軸とし,とりわけ時系列データのデータ整備を重点的に進める。PM2.5一次粒子および前駆物質サテライト勘定表の作成については,一次粒子を対象に排出量の推計精度の向上とデータソースの違いによる不確実性の検証を行い,二次粒子の前駆物質についてもデータ整備にも着手する。さらに,気象モデルと大気質モデルによるソース・レセプター関係(SRR)行列データベースの開発は,まずは主要経済国の排出量を対象に気象モデルWRFで気象場,大気質モデルCMAQをPM2.5を含む汚染物質濃度の計算を進め,モデルの地理的適用範囲の妥当性を確認しながら進める。また,汚染物質濃度から健康被害量の推定のため,地域性を加味した曝露人口と疫学研究データの整備を行う。
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