研究課題/領域番号 |
16H01807
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松村 康生 京都大学, 農学研究科, 教授 (50181756)
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研究分担者 |
香西 みどり お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (10262354)
阿部 賢太郎 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (20402935)
松宮 健太郎 京都大学, 農学研究科, 助教 (60553013)
谷 史人 京都大学, 農学研究科, 教授 (70212040)
久保田 紀久枝 東京農業大学, その他部局等, 教授 (90008730)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 調理と加工 / 農産物の微細化 / セルロースナノファイバー / 加熱調理 / 風味向上効果 / 嗜好性評価 / 腸内環境改善 |
研究実績の概要 |
阿部はグラインダーなどの湿式微粒子化装置を用いて、様々な作物由来の食品副産物の微細化を行った。クエン酸やペクチナーゼを用いて前処理することによりペクチンネットワークが切断され、セルロースミクロフィブリル、ヘミセルロースおよびペクチンが凝集無く均質に分散する懸濁液が得られることが明らかになった。 松村と松宮は、玄米などの穀類、大豆などの豆類、椎茸などのキノコ類、梅などの果実類などの微細化によって得られた微粒子やナノファイバーが、優れた界面特性、特徴的な流動挙動を示すことを明らかにした。香西は、同様の微粒子素材を用いて、実際の食品への展開が可能か検討を行った。具体的には、各種微粒子を2~10%添加したメレンゲは離しょうが抑制され、干し椎茸2%添加では砂糖使用量を1/3まで減らせたが、スポンジケーキの膨化安定性には寄与しなかった。微粉末試料を10%前後用いると卵不使用のマヨネーズ様ドレッシングが調製できた。また微粉末試料は2~10%濃度で水に分散後加熱することでソース状となり、増粘剤的効果も期待できた。 久保田は、主にトマトを対象として、加温処理が風味改善につながるかを検討した。具体的には、破砕したトマトを40℃に10分保持した後に加熱することにより生成する香気性成分をGC-MS分析により調べた。その結果、カロテノイド由来の香気成分群が顕著に増加することが分かった。その中の1成分については官能評価によりトマトソースの風味を向上する効果を確認した。 谷はC57BL/6マウスを対象として、セルロースナノファイバーの安全性を検討した。具体的には、8週間、セルロースナノファイバー含量が3% (w/v)の飼料を給餌した。血中の炎症性サイトカインTNFa量などに変化はなく、大腸組織にも異常は観察されず、活動性の炎症は起こっていなかった。また、腸間膜リンパ節の免疫恒常性が維持されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
阿部は保有する微細化技術を駆使して、様々な農産物の微細化を試みており、セルロースのみならず、ヘミセルロース、ペクチンなどのナノファイバー化に成功している。ぶどう果皮など未利用の食品副産物にも対象を広げつつあり、本研究の原材料供給をしっかりと支えている。 松村と松宮は、農産物の微粒子や、阿部から供給されるナノファイバー素材を対象として、界面特性や流動特性の検討を順調に進めている。食品への新しい利用法の観点から、メレンゲなどの泡沫食品が有力であるが、起泡力や泡沫安定性を客観的に評価する技術の確立に成功したことから、29年度は、微粒子やナノファイバー素材の泡沫特性の検討も視野にいれるなど、順調に計画を進めることが可能である。香西も、様々な微粒子を、メレンゲ、スポンジケーキ、マヨネーズ、ソース等へ応用できる可能性について順調に検討を進めている。松村・松宮から得られる基礎的な情報に基づいて、調理条件をさらに改善することにより、品質の高い食品創製のための知見が蓄積できると考えている。 久保田は、トマトを中心に、加熱条件を制御することにより、風味改善効果をもつ香気成分の生成が可能であることを示した。この手法は、他の食材にも応用できることから、今後、様々な農産物の微細化、加熱処理により風味改善が可能であるのか、またその原因となっている成分は何なのかを明らかにすることができると考えている。 谷は、本年度までの研究でセルロースナノファイバーの生体、特に消化管への安全性を検証した。谷は、セルロースナノファイバー摂食により、Prevotella属の腸内細菌叢が約50%を占めるようになるとの知見を得ており、今後は腸内細菌との関わりも含めた、ナノファイバーが示す生理機能について順調に検討を進めることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
阿部は、引き続き様々な農産物素材の微細化法を検討するとともに、微細化したナノフィバー試料を他のグループに供給する。新たな試みとして、キノコよりβ-グルカンナノファイバーを効率的に取り出すことができるのか検討を加える。 松村と松宮は、前年度までの界面特性、流動特性の解析結果に基づき、特にPickering安定化技術を利用することによって、微粒子素材やナノファイバーより、泡沫や乳化物を安定的に調製できるのか検討を加える。香西は、引き続き微粉末試料の調理加工特性ついて検討を行う。平成28年度の結果より、砂糖使用量を減らしたメレンゲ、卵不使用のマヨネーズ様ドレッシング、増粘多糖類不使用のとろみ剤の調製への応用可能性が示された。特にとろみ剤的効果については、今後、粘性等の物性を詳細に検討し、一般のとろみ剤との違いや加熱、冷凍耐性等についても明らかにする。また、スポンジケーキの膨化安定性にはあまり寄与しなかった微粉末試料をパンに添加した場合の効果について検討を行う。 久保田は、トマトの加熱調理により生成された、カロテノイド由来の香気成分について、その生成機構の解明を行う。すなわち、この香気成分の増加は酵素作用によるものと考察されることより、保持温度および保持時間を変えて、香気成分の変化を詳細に調べる。また、植物タンパク質研究者の協力を得て、この現象に関与する酵素を検討する。一方で、他の農産物についても、28年度と同様のアプローチで取組み、風味改善をもたらす香気成分についての情報を蓄積する。 谷は、初年度は、ヘミセルロースを除去したセルロースナノファイバーを調製し実験を行ったが、29年度は、野菜や果実を実際に食する場合を想定して、ヘミセルロース含有のナノファイバーを摂食させ、結果を比較する予定である。また、ナノファイバー摂食により優勢になる腸内細菌の、より詳細な属種の解析を行なう。
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