研究課題
本研究の目的は,縄文,弥生など新石器時代の土器表面に付着する炭化物(土器付着炭化物)と土器胎土に吸着する有機物(土器胎土吸着物),二種類の残存有機物の起源を最新の有機地球化学的手法によって分析し,スス・コゲ,黒斑の位置など三次元形態観察情報と比較することにより,調理形態(土器選択,おき火加熱)も含めた包括的な古食性復元を行うことである。以下,今年度の主な実績を上げる。1)今年度10月に導入されたガスクロマトグラフ付IRMSで,同位体比既知の脂質標準試料を分析し,充分な精度,確度で分子レベル同位体組成が分析できることを確認した。2)中国新石器時代稲作文明初期(紀元前 5000-4700年)の田螺山遺跡第8・7層から出土した内面底部土器試料に付着した炭化物4試料を,GC-MSにより,バイオマーカー分析したところ,(海産,淡水産)魚介類,海獣などを含まず,単一食材かどうかはともかく,デンプン質を含むC3植物(and陸獣)の植物質調理を行った痕跡を検出した。土器底部外面は強く加熱を受けており,内面に,積層した炭化物(コゲ)が付着しているという土器観察情報は,デンプン質を含む食材を調理したというバイオマーカー分析の結果と整合的である。3)礼文島浜中2遺跡出土土器内面の付着炭化物の炭素年代測定,安定同位体組成を分析した結果,土器でニホンアシカを煮炊きしたという考古学的な仮説と調和的な分析結果をえた。さらに,タンパク質を主体とするコゲとより軽い炭素同位体組成を示す脂質の影響を強く受けるコゲが存在すると考えると付着物の安定同位体組成,C/N比との関係をうまく説明できることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は,以下の2点により,おおむね順調に進展していると判断した。1)新規で導入した燃焼炉付ガスクロマトグラフ付安定同位体分析装置が順調に立ちあがって,分子レベル安定同位体測定(CSIA)を利用して,より具体的に調理起源物質を推定することができるようになり,2)前倒し申請して導入したオートサンプラーとionOSソフトウエアにより,CSIAシステムの自動化が推進できた。その結果,3)田螺山遺跡出土土器に内部底面に付着した炭化物を脂質分析することにより,中国稲作文明初期(紀元前 5000-4700年)の食生活の地域特異性や共通性を科学分析によって,読み解き,土器の器種や調理形態を交えた考察を行うことができた。初年度として,充分な成果である。
平成28年度に引き続き,脂質分析システム,CSIAシステムを持ちいて,以下の観点から土器脂質分析を進めて行く。1)同一(個体)土器の付着炭化物のリザーバー効果や安定同位体組成(1),脂質バイオマーカー分析結果(2),CSIA分析結果(3)などの土器残存有機物情報の整合性を検討する。2)日本産現生生物の脂質組成とその脂肪酸炭素同位体比情報の収集作業を集中的に行う。3)上記により,得られた脂質,CSIAデータを,スス・コゲ,黒斑の位置など三次元形態観察情報と比較する。その結果,残存有機物情報を単なる有る無し論ではなく,調理形態(土器用途,おき火加熱)も加味した,包括的な古食性復元法としての発展を目指す。
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