研究課題/領域番号 |
16H01836
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 幸生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20273609)
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研究分担者 |
久代 紀之 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (50630886)
奈良 由美子 放送大学, 教養学部, 教授 (80294180)
平野 真理 東京家政大学, 人文学部, 講師 (50707411)
坪倉 正治 星槎大学, 共生科学部, 客員研究員 (20527741)
上 昌広 星槎大学, 共生科学部, 客員教授 (50422423)
瀧田 盛仁 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 医長 (20760292)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 信念の漂流の抽出 / 情報伝達 / テキストマイニング |
研究実績の概要 |
災害、健康被害の前中後に不安におかれた人々に対し、信頼性・有用性・一貫性を備えた情報生成・伝播・受理・活用システム構築の基盤的手法を、必要な分野の研究者に絞った共同研究によって確立することが目的である。データからの悩み発見技術を開発し、これと専門家の背景知識を併せることによって、問題解決シナリオとデータを連結した論理的情報を構成し社会に提供してゆく技術を実現したい。
本年度はまず、①IMDJ(Innovators Marketplace on Data Jackets:要求とデータを連結させる発想を得る方法の総称)等のワークショップメソッドを適用し人々の不安の背景にある状況や要求 ②①の要求に適合する情報や提案 ③これらと科学的データとの関係性を、網羅的に検討した(計画調書の手順2に該当)。特に、発言の支持・否定を論理的に説明する拡張ゴールグラフ(Extended Goal Graph)を取り込んだ拡張メソッドによって、要求掘り起こしに注力した。EGGは要求の構造化と衝突・トレードオフの発見への支援効果があるが、データの選択と連結の効率化が困難であることがわかったため、手法の改良にも着手した。
また、自然災害や健康上の害に接した人々の多様な悩みについて解決案を収集する調査を行い、メディアが提供した災害情報のデータベース作成、病院における放射線相談のテキスト化を行った。相談事は不安の種類によってカテゴリー別に分類され、放射線に関する調査結果と組み合わされている。Webからも健康などに関する悩みの内容を収集した。これらの作業は、一般の人々の持つ多様な悩み、悩み解決方法やプロセスに関する情報の今後、収集(手順2に該当)に相当する。この「悩み→要求→知識」という、必要な知識を得るための情報を「悩み」と「科学的データ」との架け橋とし、データまで繋がる上述の論理的情報を構成してゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要のとおり、一般の人々の「悩み」に専門家の背景知識を連結した論理的な問題解決シナリオを構築し、さらにそのシナリオをデータによって支持するような情報を構成し社会に提供してゆくことが最終的な目標である。よって本年度は、約1月ごとに研究メンバーである関連分野の専門家のミーティングを実施し、オリジナルのワークショップメソッドによって人々の不安の背景にある状況や要求、これに適合する情報や提案と科学的データとの関係性を検討してきた。これは研究計画の手順1に従った順調な進捗である。
一方、災害に接した人々の多様な悩みについて、過去の解決案を収集してきたことは、本研究における予備調査に当たる。ここでは、自然災害の被災者および救援経験者が持つ多様な悩みと解決プロセスに関する知識を収集した。また、危機からの回復過程で当事者はどのような資源を動員し、価値と資源の方向付けをどのように変容させるのかを把握するため、東日本大震災発生後の被災者調査データの再検討し、危機やリスクに対する当事者のリテラシー向上とマネジメントについても理論的実証的に検討した。このように、悩みや不安におかれた人々の行動のしくみを把握し今後の研究の基盤を確保したことは、これは研究計画の手順2に従った順調な進捗であるといえる。又、発言の支持・否定を論理的に説明するEGGメソッドは上方(社会的要求)から下方(支持データ)に向けて拡張してゆくため、データの選択と連結の効率化が困難であることがわかったため、「今後の研究の推進方策」に示す手法の改良に着手し29年度に繋いでおり、これは研究計画の手順3にも踏み込む進捗である。
以上のように、当初の計画に沿ったペースで研究は進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
社会に提供すべき情報の全体像についての検討、論理的な議論に基づく情報・データの選択と連結と呈示に関する技術の具体化、情報提示システムについてのフィールド試験と心理尺度開発を含む有効性確認と社会還元という3フェーズの研究を、計画通りひきつづき推進する。災害前後における人々の不安の背景と本質的要求を分析し、本質的要求に適合して提供すべき情報を導出し、その情報を支持するデータまで効率的に結合して示す方法を開発する。
この研究においては、人々の持つ多様な悩み、悩みを解決する方法やプロセスに関する情報の収集と論理的な知識化を進めることが本質となる。このための予備検証作業として、Web上で公開されたテキストに論理的解釈の手掛かりとなるアノテーションを付すことによって、心理的レジリエンスの多角的な測定尺度を表出化する手法も開発しつつ進めている。進捗に示した未配分金額も、29年度にこの作業の完成に充てる。
当初は、アンケート回答や科学的データを結合し論理化してゆくワークショップにおいて、SNS等のメッセージから「学習なき発見」により注目すべき悩みを捉え、発言の支持・否定を論理的に説明する拡張ゴールグラフ(EGG)を生成する技術をひとつの基盤的な骨組みとしてきた。しかし、EGGは上方(社会的要求)から下方(支持データ)に向けて拡張してゆくため、データの選択と連結の効率化が困難であることがわかった。これを補強する手段として、影響力の強い過去の要求に対してデータの基づく回答を行った相談ログから学習した、要求→解決知識→データというパターンを提示するシステムを開発し、論理的シナリオ構成プロセスを支援してゆく。その後には、生成された論理的シナリオを公開し、被災者対応の専門家の教育と被災者に対し信念の漂流からの脱却に応用しつつ心的レジリエンス心理尺度開発にも展開することを目指している。
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