研究課題/領域番号 |
16H01836
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 幸生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20273609)
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研究分担者 |
坪倉 正治 星槎大学, 共生科学部, 客員研究員 (20527741)
瀧田 盛仁 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 医長 (20760292)
久代 紀之 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (50630886)
平野 真理 東京家政大学, 人文学部, 講師 (50707411)
早矢仕 晃章 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80806969)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 信念の漂流 / 意思決定 / 情報提供 / レジリエンス |
研究実績の概要 |
2016年から開始した段階では、本研究の根幹である信念の漂流(BF)は不安の大きな原因であると考えていた。しかし、2017年には、信念の漂流を抑制し意思決定を実現することを、心的なレジリエンスよりも問題解決行動に至る判断力のレジリエンスに近く位置付ける視点が芽生えた。 この視点は、信念の漂流の有無あるいは程度を評価する指標を代表者と各分担者の多様な視点から持ち寄り、①心信念の漂流を測定する心理尺度を作成し不安に関わる心理尺度との関連を検討、②医療機関で使用されるデータ項目に基づいて信念の漂流を抑制する意思決定シナリオを検討(医療分野に絞ったIMDJ等)を並列に進めたことにより得られた。この結果、①については、情報や選択肢の不足、他者とのコンフリクトなど、意思決定の困難さにかかわるBF尺度が、将来に克服困難な問題の起きる可能性や自身の力不足を感じる不安と正の相関が見いだされた。 一方、不安に関連する因子全体とBF指標全体の相関は弱かった。このため、BF⇒不安という因果関係ではなく、コンフリクトあるいは情報不足の程度に応じて問題解決に達するための情報の提供・受容に関する意識調査と調査データ分析を行う方針を着想した。②についても、信念の漂流を抑える多様なアクションが提案された。 よって2017年度には拡張ゴールグラフ(EGG)と呼ぶ要求定義手法を開発し、90万円は2018年度に持ち越しつつ医療分野に対象をフォーカスしながら諸般の問題とその解決に有効となる情報(データを得るための検査等)、その情報を評価する指標の関係を、医療者、一般者、その中間的な被験者を対象として求め、この関係の一般性を検証するため医療分野における社会調査を実施した。ドメイン知識に依存して行動の評価指標と用いるデータ属性が異なることが分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、信念の漂流(BF)と不安という既存の心理学的指標と混同していたのに対し、問題解決行動に至る判断のプロセスにおける情報不足というコンテキストで捉えなおしたのは、根本的な進捗となった。本来、情報の生成・提供を目的とする本研究にとっては重要な気づきであった。 ここで得た方針を確認する作業として、効果的にEGGを用いることができたのも、本研究を支援する技術として同手法を準備していたことが幸いした。さらに、もとの計画ではこのEGGを情報の生成・提供ツールとする想定であったのに対し、2018年には開発した技術の開発をこの研究に投入できたのも、不安という因子にこだわるのはやめて、あくまでも不安は行動によって解消されるという仮定に立って問題解決支援を優先したことの恩恵である。さらに、ドメイン知識に依存して行動の評価指標と用いるデータ属性が異なることが分かってきたことから、インスタンスとしてのデータそのものではなく、まずそのデータ属性(変数)への気づきを支援する最終方針を獲得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
一部を2018年度に繰り越して実施した2017年において、不安等に関する心理学由来の因子とBFを評価する指標の相関が、意思決定および行動に直接的に関係する部分を除いて弱いことが明らかとなったことは、有益な知見である。この知見を根拠として最終年度は、BF抑制を問題解決という視点から捉え(不安という心的側面も問題解決行動の結果として解決できる部分のみを対象とし)、2018年に別途開発し公開した変数セット可視化システムを活用することによって、ゴールの表出化とその導出のための推論に用いることのできるデータ属性情報の提供システムを完成し適用してゆく方針に集中する。すなわち、個人あるいは集団の「悩み」を、彼らのおかれた状況における「問題」として定式化し、問題とその解決策のなす導出構造において本質的役割を果たす情報の提供に徹底的にフォーカスした情報の生成・提供手法の研究を進める方針を強化する。 興味深いことに、対象分野における知識に依存して重視するデータ属性すなわち変数は異なり、その背景として検査等を評価する指標に強く関連する被験者の意識の差があることが示唆される調査結果を得たことから、既にデータ市場設計の文脈で早矢仕・大澤が開発してきたVariale Questを、医療者等の専門家が自分の知識とあわせて意思決定主体(被災者や患者など)BF抑制支援システムとして再構築して公開し、最終年度はこれを医療等の信念漂流領域に適用し実験を重ね、メンバーの評価コメントを収集して成果をまとめてゆく。
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