研究実績の概要 |
我々は、マウスの線維芽細胞に2つの転写因子を導入することで、肝細胞の性質をもったiHep細胞を作製することに成功した。iHep細胞は肝細胞の形態的特徴や遺伝子・タンパク質発現を有し、肝細胞特有の機能をもったまま培養下での増殖や維持、凍結保存が可能であった。また、肝機能不全で死に至る高チロシン血症モデルマウスの肝臓へiHep細胞を移植すると、肝細胞として障害を受けた肝臓組織を機能的に再構築し、マウスの致死率を大幅に減少させた。このように、iHep細胞は医療・創薬への応用が強く期待される細胞といえるが、その機能レベルは生体の肝細胞よりも低い。そこで本研究では、iHep細胞の機能的成熟を誘導する方法を開発するとともにその分子機構の解明を目指して研究を行った。平成30年度では、確立した培養条件によるiHep細胞の機能的成熟度やシグナル伝達経路の解析をさらに進めた。その結果、細胞凝集塊形成によるHippoシグナルの活性化、並びにHnf1αを筆頭とする肝細胞分化関連転写因子の活性化が、iHep細胞の成熟化を強く促進することを見出した(Yamamoto et al., Cell Rep., 2018)。また、iHep細胞の発展的研究として、肝細胞へのダイレクトリプログラミング技術をがん治療に応用できないかと考え、これまでの研究で重要性が明らかになった肝細胞分化誘導因子セット(HNF4A、FOXA3、HNF1A)をヒトの肝がん細胞に導入した。その結果、肝がん細胞の長期的な増殖阻害やがん形質の消失、並びに肝細胞分化マーカーの発現上昇が認められた(Takashima et al., Cancer Sci., 2018)。このことから、ダイレクトリプログラミング技術を利用した肝がん細胞の肝細胞化が、肝がんの治療や制御に有効であることが示唆された。
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