研究課題/領域番号 |
16H01854
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
大矢 裕一 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (10213886)
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研究分担者 |
葛谷 明紀 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (00456154)
高井 真司 大阪医科大学, 医学研究科, 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インジェクタブルポリマー / ゾルゲル転移 / 生分解性高分子 / 癒着防止 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
PEGを高分子開始剤としたグリコリド(GL)とカプロラクトン(CL)との共重合により,末端が水酸基であるPCGA-PEG-PCGAトリブロック共重合体(CP-OH)を合成し,その末端をスクシンイミドエステル基(OSu基)に変換したCP-OSuを得た。CP-OSuとCP-OHを適当な割合で混合したミセル水溶液に,ポリリシン等のポリアミン水溶液を加えたもの(以下OSu-IP製剤とする)を調製し,温度応答型ゲル化挙動を観察した。その結果,32℃付近でゲル化し,その後4℃まで冷却してもゾルに戻らず,不可逆的な化学架橋ゲルを形成することを見出した。次に,OSu-IP製剤から調製したゲルをPBS中に浸漬し,ゲル状態を維持する期間を調査したところ,通常のIPゲルでは1日以内にゾルに戻ってしまう条件下で,最長12日間ゲル状態を維持することを確認した。この維持期間はCP-OSuとポリリシンとの混合比率を変えることによって簡便に調節可能であった。 OSu-IP製剤をマウス皮下に注入してゲル化させ,所定日数後にゲルの存在状態を観察したところ,体内でも1週間以上ゲル状態を維持しており,良好な生体適合性を示すことが分かった。 OSu-IP製剤ゲルの内部での細胞の生着・増殖を評価したところ,細胞毒性を示さずゲル内部でL929マウス線維芽細胞が増殖可能であることが分かった ラット癒着モデルにおいて,キマーゼ阻害薬を含有するIP製剤ゲル化の癒着防止効果を調べたところ,対照群と比較して優位に優れた結果を得た。 一方,チオール-エン反応型IPの合成についても検討した。CP-OH両末端がアクリレート化されたCP-Acrylを合成し,これとCP-OHを混合したミセル溶液と,各種ポリチオールを含むCP-OHミセル溶液を混合したものもOSu-IP製剤と同様に不可逆的な化学架橋ゲルを形成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初28年度の予定としていた項目はほぼ目的通り達成し,論文の投稿・受理も完了した。 さらに,29年度予定として挙げていた,チオール-エン反応型IPの合成にも成功し,OSu-IP製剤と同様に不可逆的な化学架橋ゲルを形成することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
1. OSu-IP製剤ゲルの癒着防止効果の検討と最適化:ラット癒着モデルにおいて,キマーゼ阻害薬を含有するIP製剤ゲルの癒着防止効果について,その組成などを変化させながら最適化を図る。 2. チオール-エン系IP製剤の基礎物性測定:合成したCP-AcrylとCP-OHを適当な割合で混合してPBSに溶解させたものに,各種ポリチオールを加えた製剤(チオール-エン系IP製剤)について,前年度までのOSu-IP製剤と同様に以下の様にゲルの基礎物性およびIP製剤としての評価を行う。a)ポリマー濃度とゲル化温度,ゲルの力学的強度などとの関連性の評価,b)in vitroにおけるゲルの生分解性およびゲル状態の維持期間の評価, c)ゲル内部での細胞の生着・増殖活性の評価, d)IP製剤をマウスの皮下に注入した後の組織適合性の評価,e)キマーゼ阻害剤を含むチオール-エン系IP製剤の癒着防止効果の評価 3. タンパク質・ペプチド薬物徐放製剤としての検討:共有結合を形成するIPは物理架橋だけからなるIP製剤と比較して,ゲルの網目鎖の解離が抑制されるため,薬物放出速度を抑制できるという可能性がある。そこでチオール-エン系IP製剤のタンパク質薬剤徐放出製剤としての評価を行う。モデルタンパク質内包IPゲルを作成し,PBS中でのゲルからのモデルタンパク質放出挙動を検討する。またin vivoにおいてもマウス腹腔に薬物内包チオール-エン系IP製剤を注入してゲル化させ,経時的に尾静脈より血液を採取し,血中のモデル薬物濃度を追跡し,IP製剤の徐放効果を検討する。 4.即時調製製剤化の検討:臨床現場での即時調製に対応するため,可溶化剤であるPEGとともに凍結乾燥した共有結合形成IP製剤を調製し,短時間で注射剤が調製できることを確認する。
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備考 |
平成28年度私立大学研究ブランディング事業選定
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