研究課題/領域番号 |
16H01869
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
七五三木 聡 大阪大学, 全学教育推進機構, 教授 (20271033)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 運動視 / 背側視覚経路 / アスリート / カフェイン / コントラスト感度 |
研究実績の概要 |
本研究課題におけるこれまでの研究から、視覚的に物体の動きを感知する能力(運動視能)は、非スポーツ競技者に比べて卓球競技者などの球技系アスリートの方が優れていることがわかった。しかし、運動視能を含めた視覚刺激検出・弁別能は、目的とする視対象(視標)を取り巻く周辺の視覚情報によって大きく影響を受けることが知られており、視標の動きに対する感度という観点だけでなく、視野全体の不要な情報(ノイズ)の中から、いかに必要とする視対象の情報(シグナル)を分離できるか、という観点からの視機能評価が実際のスポーツ場面を想定した評価としてより重要になってくる。そこで今年度は、運動視能に対するノイズの影響を検討したところ、運動コヒーレンス感度(運動視能)は、ノイズが加わることで大きく低下し、その低下は非競技者で著しく、卓球競技者は耐性を示すことが明らかになった。このように、視覚的に物体の動きを検出・弁別し、身体的に反応する訓練を日常的に積んでいる卓球競技者では、単にシグナル検出感度が高く、弱いシグナルを検出できるだけでなく、運動シグナルの検出を妨げるノイズ情報に満ちた視覚条件下にあってもシグナル情報を確実に処理できるように視覚情報処理機構が改善されている、ということが明らかになった。 脳の状態によって視機能は変化する。そこで、自由行動下のラットに視覚刺激検出課題を実施して、視機能評価としてのコントラスト感度計測を行い、大脳皮質の脱抑制効果を有するカフェイン投与の効果を検討した。その結果、カフェインはコントラスト感度を有意に改善することが明らかになった。この神経メカニズムを電気生理学的に明らかにするために、頭部固定条件下で視覚刺激検出課題を遂行中のラットの大脳視覚皮質から多点記録電極を用いて神経活動を記録する実験系を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度におけるヒトについての研究では、背側視覚経路の機能評価方法の妥当性や再現性を検討するとともに、計測プロトコルを工夫することで、スポーツ競技者の運動視能の特性を引き出すことを目的としていた。それら全てが予定通りに実行され、運動視能のノイズに対する耐性や脳状態依存的なゆらぎとその要因についての手掛かりを見出すことができた。 動物実験については、脳状態の変化と視覚機能の関係性を直接的に調べることを本年度の目的としていたが、これについても脳の脱抑制を促すカフェインの投与によってコントラスト感度が改善されることをラットの行動実験により明らかにした。また、その神経機構を調べるために不可欠な、頭部固定下で視覚刺激検出課題遂行中のラットの大脳皮質視覚領野から神経活動を記録し、神経修飾物質などを投与することが可能な実験システムの開発も完了した。全てが予定通り順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度として、スポーツパフォーマンスに関わるアスリートの視機能について、視覚情報処理の解剖生理学的な知見に基づく実体としての神経基盤に即した評価法の確立とその体系化を行う。具体的には、既に確立した5次視覚野(運動視中枢)の機能評価法を軸として、眼(網膜)への視覚入力から5次視覚野に至るまでの各領域(外側膝状体・1次視覚野)における視機能評価法の確立し、アスリートの優れた運動視能が生み出される仕組み(どの領野のニューロンの、どのような性質が改善されているのか)を検討する。また、視覚入力から5次視覚野を経て最終的に運動出力に至るまでの情報処理機能評価を、頭部固定した心理物理実験だけでなく、実際に卓球ボールを打つスキル評価実験によって評価することで、運動視能が実際のスポーツパフォーマンスにどのように寄与しているのかを明らかにする。また、ラットを用いた視覚刺激検出課題遂行中の神経活動記録実験から、脳状態と視機能の直接的な関係を明らかにする。
|