本研究課題におけるこれまでの研究から、物体の動きを視覚的に感知する能力(運動視能)は、非スポーツ競技者に比べて卓球競技者などの球技系アスリートの方が優れていること、また、その差は、目的とする視対象(視標)のみの動きを検出・弁別する時よりも、視標の周囲に不要な情報(ノイズ)が存在している時に顕著になることが明らかになった。このような運動視能における優位性が日々の練習によって形成されたものであるならば、練習時に処理される視覚情報の特性に応じた優位性が観察される可能性がある。そこで、本年度は、運動視能の視野内の空間的位置に着目して、運動コヒーレンス感度(運動視能)を計測したところ、中心窩に近い周辺視野領域のみで卓球競技者は運動視能が有意に高いこと(視野特異性)が明らかになった。このように、視覚的に物体の動きを検出・弁別し、身体的に反応する訓練を日常的に積んでいる卓球競技者では、視野全体に渡って運動視能が高いわけではなく、動きに対する感度の高い周辺視野の中でより空間解像度の高い中心窩よりの周辺視野領域で高く、この視野領域が卓球競技における動きの分析に重要な役割を果たすことが示唆された。 スポーツ中、様々な神経修飾物質が脳内に分泌され、それらの修飾効果により脳の状態は変化する。神経修飾物質の一つであるセロトニンも、リズミカルな運動時に分泌が促進することが知られており、スポーツに関わる脳機能に影響を及ぼしている可能性がある。そこで、この点を調べるために、自由行動下のラットに視覚刺激検出課題を実施して、視機能評価としてのコントラスト感度計測を行い、脳内のセロトニン濃度上昇効果を有する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)投与の効果を検討した。その結果、SSRIはコントラスト感度を有意に改善することが明らかになった。
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