研究課題
ヒト解剖体を用いた観察・実験やヒト生体の骨格筋特性を非侵襲的に定量することを試みた。また、高齢者から一流アスリートまで幅広い身体運動能力レベルの人間を対象に、骨格筋の「機能的・形態的・質的」特性の機序解明を推進した。高齢者に対する効果的な運動プログラムに関する研究では、どのようなタイミングで運動を行うと身体機能の維持・向上により効果的かという「時間運動学」の概念に着目し、運動の実施タイミングが高齢者の生体リズムや身体機能に及ぼす影響を明らかにすることができた。また、一流アスリートに代表される身体能力レベルが非常に高い人間の筋腱複合体特性やその使い方を明確化させたことで、一般人の身体運動能力を向上させる手がかりを明らかにした。この研究では、レスリングなどの格闘技選手は水泳や球技を専門とする選手と比べて内転筋が肥大しており、これはトレーニングに対する骨格筋の適応が種目ごとに異なることを示している。さらに、球技選手は下肢のバネ能力が高いという特徴が観察され、アキレス腱の硬さや材質的特性が関与していることが示唆された。これらの研究成果は、種目毎のトレーニングの明確化につながるとともに、競技パフォーマンスを向上させるスポーツ用具の開発に結びつくことが期待される。さらに、筋腱複合体の材質的特性を解明する研究においては、解剖体の大腿部深筋膜を牽引することで力学的特性の定量化を試みた。その結果、深筋膜は身体の長軸方向に高い弾性を示し、骨格筋の収縮方向と一致するため、深筋膜の材質的特性は骨格筋の機能を反映することが示された。一方、骨格筋に損傷を誘発する伸張性収縮を伴う運動の動作特異性に関する研究では、大腿四頭筋内に引き起こされる筋損傷部位を特定することで、スクワットや下り坂歩行は内側広筋に、ニーエクステンションは大腿直筋に筋損傷を引き起こすといった筋特異性が世界に先駆けて明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
科研費によって研究補助者を雇用し、研究に専念させることによって効率的、集中的な研究環境づくりが可能になった。大学院生、学部生の学位論文と研究室プロジェクトを有機的に結びつけ、研究に関わる人材を増やすこころみも奏功している。関連する論文も順調に国際誌を中心に投稿・受理されつつあり、研究室メンバーもヨーロッパ各国で開催される学会で発表、研究者の注目を集めることとなった。
骨格筋の機能的・形態的・材質的特性の徹底解明プロジェクトを継続、発展させる。昨年度の成果に基づき、身体運動能力の規定因子を探る縦断研究に取り組む。身体機能向上を目的とした骨格筋の機能的・形態的・材質的特性の適応性に関しては、昨年度に続き、高齢者を対象とした横断的研究・縦断的研究にすでに着手している。高齢者の日常生活動作の遂行能力の改善策の提案に向けて、昨年度のプロジェクトを通じて明らかになった課題をクリアしてゆく。具体的には、身体運動能力の動作依存性を考慮すること、骨格筋適応を促進する運動の様式・強度の検討および栄養摂取との組み合わせの必要性である。これらの点を考慮して、今年度は運動と栄養の相乗効果をねらった新たな運動・栄養プログラムの介入研究を実施する。来年度以降の、高齢者の健康増進・健康寿命延伸につながる方策の提案に結びつけていきたい。また、筋腱複合体の損傷・治癒の機序解明に関して、新たな骨格筋電気刺激法の開発とその応用を試みているところであるが、この研究をさらに進める。これまで研究対象としてきた大腿四頭筋に加えて、スポーツ障害・外傷が好発するハムストリングス、歩行機能と密接に関係する下腿三頭筋も研究対象とすてアプローチする予定であり、身体運動における下肢筋群の連携についての知見が集積されることが期待される。さらに、人間の運動能力の向上・サポートに関して、アスリートを対象としてその競技力向上に資する研究、そしてその成果の論文化に努力する。ウエアやシューズといったギア開発についても、関連する様々な領域の研究者との交流を深めながら進めていくことが了解されている。平昌オリンピック・パラリンピックに向けての日本選手のメダル増加を皮切りに、東京オリンピック・パラリンピックに向けての競技力向上プロジェクトを進め、その成果を一般人に応用する試みの第1ステップをスタートさせる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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