研究課題/領域番号 |
16H01870
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川上 泰雄 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (60234027)
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研究分担者 |
森田 照正 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00570847)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生体計測 / 筋腱複合体 / トレーニング / 個人差 |
研究実績の概要 |
高齢者から一流アスリートまで幅広い身体運動能力レベルの人間を対象に、骨格筋の「機能的・形態的・材質的」特性の機序解明に向けた研究を進めた。高齢者の健康増進に関して、前年度までの知見をもとに開発した運動プログラムは、高齢者の筋力や筋量、歩行能力を向上する上で効果的であることが明らかとなった。また、非収縮性組織と収縮性組織の両者を考慮した筋横断面積の定量法は、歩行能力を始めとした高齢者の身体能力をより深く理解する上で重要な指標となる可能性が示された。また、一流アスリートを対象とした対象者の筋腱複合体特性やその使い方に関する計測を継続実施し、それらの作用機序を明確化させたことで、身体運動能力を向上させる手がかりをつかむことができた。例えば、一流アスリートの随意最大筋力に影響する因子は、男性アスリートと女性アスリートで異なり、男性アスリートでは随意活動レベル(中枢からの下行性入力)が主に随意最大筋力に影響を与え、女性アスリートでは骨格筋サイズ(下腿三頭筋横断面積)が随意最大筋力と強く関連することが明らかとなった。これらの成果は、スポーツ科学や健康科学に関連する研究分野のみならず、競技パフォーマンスを格段に向上させ得るスポーツ用具の開発を担う人間工学分野を飛躍的に発展させる起爆剤となる可能性がある。また、競技スポーツ現場や学校教育現場における指導法の改善、ロコモティブシンドロームの進行に悩む高齢者や運動指導者への有用なアドバイスの提供などにも研究成果が応用されることが期待される。超高齢化社会に突入した日本において、健康寿命延伸は高齢者の身体的・社会的自立や介助人口の減少の観点から極めて重要な課題である。本プロジェクトの成果は、多くの人々が活発で健康的な生活を営む可能性を高めることにつながり、日本と同様にこれから超高齢化社会を迎える国々に直接的なメリットをもたらすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本科研費を活かして、計測に必要な機器や消耗品を購入することが可能となり、アスリートを対象とした計測を実施することができた。また、共同研究者のもとへの研究室メンバーの出張が本科研費によって滞りなく実施され、このことが共同研究の進展に大きく貢献した。一連の研究成果は研究室メンバーの学会発表での学会賞受賞に結実し、現在論文投稿中である。機器の購入や修繕、研究補助謝金にも本科研費を活用することができ、順調な研究の推進につながった。平成29年度に引き続き、平成30年度も一流アスリートを対象に身体機能測定(身体組成・形状、身体各セグメントの骨格筋・皮下脂肪量、下肢筋力、ジャンプ能力、アキレス腱弾性、筋収縮特性、全身持久力、最大無酸素パワー)を実施予定であり、縦断的データが順調に蓄積される予定である。高齢者の健康増進プロジェクトにおいては、申請当初平成30年度に実施を予定していたトレーニング介入実験を平成29年度に実施することができた。成果の一部は既に学術論文として学会誌に掲載され、国際学会での発表を通じて発信した。また、現在、投稿論文の執筆中であり、研究業績として結実することが期待されている。こうした成果を研究代表者の川上が国内外の講演において報告、紹介し、一定の反響を得た。研究分担者の森田との連携も順調に推移し、骨格筋の形態的特性の詳細評価に関する共同研究プロジェクトが順調に推移している。また、研究協力者との共同研究も発展しつつあり、その中では、スポーツ科学と他領域の連携も実現し、本プロジェクトを基軸とした研究分野の発展にも寄与している。
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今後の研究の推進方策 |
本科研費による研究プロジェクトも3年目を迎える。これまでに蓄積した骨格筋の「形」「質」「機能」の計測手法や、個人差や可塑性の横断的・縦断的研究成果を活用して、筋機能改善のメカニズムの解明と、一般人やアスリートへの身体運動能力向上に向けての取り組みを進める。前年度までの研究を通じて、「器」としての身体内の骨格筋とそれを包む筋膜の統合システムの形状特性や、「器」の外枠を担う深筋膜の材質特性や中身との相互作用が本研究を通じて明らかになりつつある。さらに、骨格筋ー筋膜システムの「中身」としての筋収縮要素の筋内比率や脂肪組織などの非収縮要素の構成比率といった「質」要素の生体計測手法が成熟してきた。今後はこれらの方法論を活用しながら、骨格筋特性を中心とした人間の身体能力の規定因子の特定やその改善方法の解明に向けての研究を引き続き実施し、子どもから高齢者までをカバーする一般人の健康増進法の策定に向けての研究活動やアウトリーチ活動を展開する予定である。2020年に迫る東京オリンピック・パラリンピックや、続く北京冬季オリ・パラに向けてのアスリートの競技力向上とメダル獲得数増加に向けての活動を継続・発展させるとともに、日本人の健康寿命の延伸や、子どもの健全発育に向けて骨格筋特性の改善法を確立・提案する。平成29年度から30年度にかけて、研究室メンバーに移動・卒業等による若干の変更が生じたが、コアメンバーの研究活動レベルは維持しながら、新たなメンバーの参画がもたらす斬新な発想も盛り込んでこれまでの活動を発展させる。また、スポーツ科学領域のみならず、理学、工学、医学、歯学といった領域の研究者とともに、現在までに進めているコラボレーションをさらに深化させ、産・官とのつながりも強化しつつ、発展型・成果還元型の研究活動を目指す。
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