研究課題
本研究では胎児期からの自閉症発症に関するメカニズムを、臨床と基礎研究を融合させながら解明することを目的として組織している。八木田と松石の共同研究はその典型的な研究であり、自閉症を主症状としたレット症候群を対象としたモデルマウスの作成とその解析を行い、概日リズム中枢である視交叉上核のリズム出力障害がその背景であることを示唆するデータを得た。また、関与する新規遺伝子異常を発見し、病態解明を進め、新規治療法の開発を行っており、2種の産業財産権の申請を行っている。諸隈のレム睡眠中の眼球運動密度は、レム活動性として脳機能評価にも用いられている。胎児期の眼球運動観察による胎児レム活動性が、妊娠28-29週および36-37週に変曲点をもって発達していることを明らかにした。現在、ノンレム睡眠との関連が見られる胎児の規則的な口唇運動について解析を行っている。小西は臨床において1歳から6歳までに睡眠障害を主訴として外来受診し、自閉症の疑いのある63症例を対象にメラトニン治療を行い、睡眠の改善だけでなく自閉症の症状の改善が見られることを見出した。また、2歳までと3歳以上の子どもの睡眠障害が異なったタイプに分けられること、メラトニン治療の効果にタイプの差があることを発見した。また、木津川市と共同研究を開始し、2回にわたる同市の保育園児の睡眠調査から、子どもの生活リズムの現状を明らかにし、睡眠の異常と問題行動の間に関連があることを見出した。近年、心拍変動と認知や情動との関係が心理学では注目を浴びているが、板倉は9~10ヵ月児を対象に、視線追従の生起と心拍との関連を検討した。その結果、1)アイコンタクト条件で心拍数が増加すること、2)アイコンタクト中の心拍数の増加は、乳児の後の視線追従行動の生起を予測することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
小西はASDの激増という現象に睡眠障害やVitDなどの栄養障害が関与していると考え、京大の金谷と協働し妊婦のVitDや睡眠状態を調査した。また木津川市の1歳半健診で睡眠調査を行うことで発達状態やその障害との関係を検討できるようなシステムを整え、2019年度に実施する。板倉は、木津川市の乳児健診で睡眠異常とされたケースを対象に乳幼児のリズム知覚や同期知覚と睡眠の質との関係を検討すべく小西と共同で実験を行い、データを解析中である。諸隈は妊婦のリクルートを着実に行っており、胎児期のウルトラディアンリズムの異常と出生後の睡眠障害やASDの関係を解析しはじめている。八木田は6年前から独自に企画立案し進めてきた光環境撹乱条件における「マウスコホート」研究から得られた知見が本研究に意義あるものと考え、データを分担研究者に供覧した。同時にヒトiPS細胞の分化誘導培養にともなう体内時計形成の解析系の構築は順調に進展している。マウスES細胞の細胞分化に伴う体内時計の形成機構について、生体内での細胞分化異常や脱分化により体内時計が強く障害されることを明らかにした。松石は、ASDとRTTには共通基盤を持つリズム障害、自律神経機能障害があり、交感神経・副交感神経系のアンバランスが主な要因という仮説を立てている。臨床的観察から、ASD、RTT共に、交感神経の過緊張状態が存在すると推定している。RTTでは非侵襲的な神経生理学的方法(ホルター心電図を用いてのHigh frequency、Low frequency成分、およびLF/HF比の測定法)を確立し、さらにRTT、ASDで唾液を用いた包括的な非侵襲的評価法を確立してきた。コーチゾール、メラトニン、およびノルアドレナリン代謝産物のMHPGは既に測定法を確立、RTT、ADHD児で測定して興味ある結果が得られている。クロモグラニンAは測定系を開発中である。
本研究は生体機能リズムの協働の破綻がASDをもたらすのではないかという仮説のもとに、胎児期から幼児期までの臨床研究と体内時計形成研究を連携させて、この仮説を検証しようとしているものである。そうした点を踏まえ、諸隈は胎児レム活動性に加え、胎児行動の特徴である規則的な口唇運動などと生後の行動、睡眠形成との関連を解析し、胎児期からの行動・リズムの生後との関連性を明らかにしようとしている。小西と板倉は生体機能リズムに異常が見られた乳児を対象に、リズムや同期知覚と認知能力や社会的認知、および向社会行動の関係について検討を行う。また引き続き、幼児の睡眠とリズム・同期知覚の関係も調べる。松石はRTTのモデル動物を用いて、呼吸異常、嚥下機能解明でサブスタンスP、MHPGなどの役割を明らかにする。更に、ヒトRTTでは、久留米大学でフォローアップ中の約50名の患者で、唾液を用いたコーチゾール、メラトニン、MHPG、クロモグラニンA、サブスタンスPなどの包括的測定、ホルター心電図を用いた生理機能解析を進めて、新規治療法開発として検討している。今後、ヒトRTTで自律神経、中枢神経における作用の測定系を確立する。また新生児からの睡眠障害とASD の関係についてフォローアップも新たに聖マリアNICUで確立予定である。八木田は時計遺伝子を含む様々な遺伝子改変マウスES細胞をCRISPR/Cas9法を利用して樹立し、体内時計形成への影響やリズム異常出現のメカニズムをさらに解析する。ヒトiPS細胞の分化誘導培養系を用いたヒト細胞における体内時計形成メカニズムの解析を進める。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 1件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 4件、 招待講演 9件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
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