研究課題/領域番号 |
16H01881
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
裏出 良博 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 教授 (10201360)
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研究分担者 |
島本 茂 近畿大学, 理工学部, 講師 (00610487)
藤森 功 大阪薬科大学, 薬学部, 教授 (70425453)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 睡眠 / 炎症 / プロスタグランジン / 結晶構造解析 / 遺伝子欠損マウス / シクロオキシゲナーゼ / G蛋白質共役型受容体 / 酵素阻害剤 |
研究実績の概要 |
睡眠調節や炎症の進展と終息に関与する脂溶性メディエーターであるプロスタグランジン(PG)D2の産生と情報伝達系に関する研究を継続している。PGD2の産生をつかさどるリポカリン型と造血器型の2種類のPGD合成酵素について、それぞれの酵素のX線結晶構造解析と阻害剤開発を進めた。特に、造血器型PGD合成酵素の阻害剤については、国内製薬企業と共同開発した阻害剤TAS-205が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者を対象とした第1相臨床試験(安全性試験)を無事終了して、第2相臨床治験(探索的薬効評価試験)が始まった。国際宇宙ステーションにある日本宇宙実験棟の微小重力環境を利用した宇宙実験により、ヒト酵素とTAS-205の酵素・阻害剤複合体の高品質単結晶の作製に成功し、大型放射光施設での高品質結晶を用いたX線結晶回折データを収集して、過去最高の分解能(約1.5Å)の構造座標の決定に成功した。この構造座標を精密化することで、TAS-205と同程度の薬効が期待できる阻害剤を理論的に安価に設計できる。PGD2の産生時には、細胞質に存在する造血器型PGD合成酵素が小胞体へと移動する。そして、本酵素の基質であるPGH2の産生を担う小胞体内膜側に存在するシクロオキシゲナーゼとの機能性複合体を形成する。その仲介蛋白質がカベオリンであることを同定した。Gs共役型受容体であるDP1受容体とGi/Gq共役型受容体であるDP2受容体の遺伝子欠損マウス(Balb/c系)を免疫する方法で、マウスDP1、マウスDP2、ヒトDP2それぞれに対するモノクローナル抗体の作製に成功した。これらの抗体は、両受容体の組織分布や細胞局在の研究に有効である。特に、マウスDP2に対するモノクローナル抗体は、当該受容体の細胞外ループの高次構造を認識し、同受容体に対するアンタゴニストとしての機能性を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
造血器型PGD合成酵素(H-PGDS)とカベオリンとの結合を調べるために、カベオリン内のH-PGDSとの予想結合部位のペプチドを合成してH-PGDSとの結合解析を行った。その結果、本ペプチドはカベオリンとH-PGDSとの結合を阻害し、培養細胞でのPGD2産生を低下させることが確認できた。本酵素は酵素反応に還元型グルタチオン(GSH)を絶対的に要求する。PGH2の安定型誘導体を用いた等温滴定型熱測定(ITC)により、H-PGDSはGSH存在下でないと基質結合サイトを形成できないことを明らかにできた。 リポカリン型PGD合成酵素(L-PGDS)の基質(PGH2)と生成物(PGD2)の認識機構を明らかにするため、様々なPG類をリガンドとして用いたITC測定を行い、解離定数や化学量論を詳細に調べた結果、本酵素には結合親和性の異なる2箇所の基質・生成物結合部位が存在することを証明し、生成物の結合に関してはその認識部位を特定できた。 PGD2の情報伝達を担うDP1受容体とDP2受容体の細胞分布を調べることは、PGD2の生理・病理機能を理解するためには不可欠である。しかし、現在まで、各受容体に特異的な抗体が得られていなかった。今回、各受容体の遺伝子欠損マウス(Balb/c系)を免疫する方法で、マウスDP1、マウスDP2、ヒトDP2それぞれに対するモノクローナル抗体の作製に成功した。特に、マウスDP2に対するモノクローナル抗体は、当該受容体の細胞外ループの高次構造を認識し、同受容体に対するアンタゴニスト活性を示した。CRISPER/Cas-9法を用いて、DP1受容体のN末端にFlag-tagを挿入、あるいは、C末端側へのIRES-Creを挿入したTGマウスを作製した。これらのマウスを用いたFlag抗体染色や蛍光蛋白質の発現解析によりDP1受容体の細胞局在を、新たな方法で確認できる。
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今後の研究の推進方策 |
カベオリンのスキャホールド領域がH-PGDSと結合することが明らかになったので、そのアミノ酸残基をアミノ酸置換とITCにより同定する。また、カベオリンと結合するH-PGDS側の結合部位も明らかにする。カベオリン結合部位あるいはH-PGDS結合部位を含む膜透過型ペプチドを作成し、H-PGDS発現培養細胞を用いてPGD2の合成抑制効果を調べる。GSH類似体を用いた相互作用解析によりH-PGDSのGSH認識機構を明らかにする。また、H-PGDS・GSH・基質誘導体の三者複合体の構造解析を行う。基質誘導体の結合親和性が低い場合は、第2相臨床試験の行なわれている阻害剤TAS-205、または、そのリード化合物であるTFC-007を使用する。 L-PGDSの生成物認識機構を複合体構造解析で明らかにする。既に、両者の親和性や複合体形成条件を決定したため、その条件下でのX線結晶構造解析を試みる。L-PGDSまたはH-PGDSとリガンド(GSH・基質・カベオリン断片ペプチド)の相互作用解析はITCとNMRを併用して進める。これらの複合体の構造解析には、国際宇宙ステーションの日本実験棟(JEM)「きぼう」の微小重力環境を利用した高品質結晶化作成法を活用する。本年度も2回の宇宙実験への参加を予定している。 昨年度に作製したDP1とDP2受容体に対するそれぞれのモノクローナル抗体を活用して、PGD2の産生の活発な中枢神経系、生殖器、免疫系組織を中心に、両受容体の細胞局在を明らかにする。これらの抗体を用いた免疫染色と並行して、Flag-tag-DP1マウスやDP1-IRES-EGFPマウスを用いたDP1の発現解析を行なう。DP2アンタゴニスト抗体を用いた抗炎症効果の検証実験を行なう。
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