研究課題/領域番号 |
16H01882
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤井 郁雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70189984)
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研究分担者 |
円谷 健 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00372855)
藤原 大佑 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30611420)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ペプチド / 進化分子工学 / 分子標的医薬 / ポスト抗体医薬 |
研究実績の概要 |
進化分子工学(細胞表層ディスプレイ技術)とペプチド構造構築理論を組み合わせることにより,細胞内送達を可能にし,細胞内タンパク質をターゲットとする分子標的ペプチド(中分子化合物)の新しい設計法を開発する。すなわち,強固な立体構造をもつペプチドの細胞表層提示ライブラリーを構築し,標的タンパク質に結合するペプチド(マイクロ抗体)をスクリーニングする。得られるペプチドは立体構造を持っているので,生体内の酵素分解に対しても安定であり,抗体と同等の高い特異性と強い結合活性をもつ。そこで,この分子標的ペプチドを利用して,特定の細胞を標的し細胞内に効率良く送達される分子標的中分子の開発を行う。本研究によって,標的タンパク質が細胞内タンパク質にまで一挙に及ぶことになり,ケミカルバイオロジーの進展に貢献するとともに,医薬品開発においても対応可能な疾患の範囲が大きく広がる。28年度は,ヘリックス・ループ・ヘリックス構造をもつ立体構造規制ペプチドを設計し,ヘリックス部分,ループ部分,ヘリックス部分+ループ部分の3種のライブラリーを構築した。さらに,そのファージ表層提示ライブラリーを作製した。これらのライブラリーを血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対してスクリーニングしたところ,安定なヘリックス構造をもつVEGF結合ペプチド(Kd = 0.7 nM)の獲得に成功した。VEGF受容体が,エンドサイトーシスすることが知られているので,このペプチドがVEGFと複合体を形成し,VEGFとともに細胞内へ取り込まれることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)立体構造規制ペプチドライブラリーの構築:ヘリックス部分のペプチド・ライブラリー(α-helix)の作製には成功している。このα-ヘリックス部分ライブラリー以外に,さまざまなタンパク質-タンパク質相互作用のトポロジーを考慮し,ループ部分のライブラリー(Loop)およびヘリックス部分+ループ部分のライブラリー(α-helix+loop)の構築した。 (2) 立体構造規制ペプチドライブラリーのスクリーニング: 上記のように構築したら3種のライブラリーをファージ表層に提示させ,各種標的タンパク質に対してスクリーニングを行った。細胞外タンパク質として血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を分子標的とした。VEGFの膜受容体であるKDRは,エンドサイトーシスを起こす。3種のファージ表層提示ライブラリーを標的タンパク質VEGFに対してバイオパンニングしたところ,α-helix+loopライブラリーより,結合活性をもつ立体構造規制ペプチド(マイクロ抗体)が獲得された。 (3) 立体構造規制ペプチド(マイクロ抗体)の安定性と結合活性:上記のスクリーニングから得られたペプチドを固相法により合成した。表面プラズモン共鳴スペクトル法(SPR)により,このペプチドが高い結合活性を持つことが判明した評価した(Kd 0.7 nM)。また,円二色性スペクトル法(CD)により,VEGF結合ペプチドが安定なヘリックス構造を持つことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)マイクロ抗体の生体内安定性 上記マイクロ抗体の立体構造情報に基づく低分子設計とともに,マイクロ抗体自身の分子標的化合物(次世代抗体)としての潜在能力を評価する。マイクロ抗体は立体構造を持つことにより,抗体と同様に,高い特異性と親和性さらに生細胞内での安定性(酵素抵抗性)を獲得することができる。そこで, 上記のスクリーニングで得られたマイクロ抗体を固層法によりペプチド合成し,円二色性スペクトル法(CD)やNMRにより立体構造を解析する。また,本マイクロ抗体の血清中での安定性など体内動態を検討する。さらに,ペプチドのN末端とC末端にCysを導入してジスルフィド結合による環状化を行い,ヘリックスの安定性を最適化するとともに結合活性および生体内安定性の向上を図る。 (2) 立体構造情報に基づくマイクロ抗体の開発 プロテイン・グラブティングによるマイクロ抗体の設計を検討する。すでに,多くのタンパク質-タンパク質相互作用のX線構造解析が行われている。そこで,X線構造から得られる立体構造情報をもとに,分子認識に必要なアミノ酸残基を土台分子に移植することにより,目的のマイクロ抗体を取得する。本研究では,p53とMDM2とのタンパク質-タンパク質相互作用を標的とする。この相互作用では,p53のヘリックス部分がMDM2と結合しており,その結合に関与するp53ヘリックス上のアミノ酸を,ヘリックス-ループ-ヘリックスのC末端ヘリックス乗に移植する(エピトープ・グラフティング)。さらに,構造支持領域であるN末端ヘリックス上にポリアルギニンなどの細胞膜透過性ペプチド(CPP)配列を移植する(アルギニン・グラフティング)。得られるペプチドはp53とMDM2との相互作用を阻害し,p53の遊離によってアポトーシスを誘発することが期待される。
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