研究課題
種々の糖鎖は、自己・非自己の認識に働くことにより、免疫機構に深く関与している。本研究は、糖鎖が免疫制御に働く機構の一端を明らかにするとともに、その機構を利用した免疫制御法を開発することを目的としている。申請者は、細菌由来自然免疫刺激糖鎖の構造と生物機能を解析し、それらが免疫活性化とそれに伴った免疫抑制を引き起こすことを明らかにした。その制御が容易ではないことから、主に生体由来の糖鎖を利用した新たな免疫調節法を考案するに到った。特にコアフコース等のN-グリカンの糖鎖修飾による免疫調節機能に焦点をあて、コアフコース認識レクチンの探索、コアフコース転移酵素阻害剤の開発、それらの免疫調節への利用について検討し、自然免疫調節剤の併用を含め、新たながん免疫療法に結びつけることを目的とする。本年度はまず,N-グリカンライブラリーの構築を行った.コアフコース、バイセクティンググルコサミン、ポリラクトサミン、末端ガラクトースおよび末端シアル酸の機能を調べるために、糖鎖ライブラリを合成した。その結果,コアフコース含有糖鎖,バイセクティンググルコサミン含有糖鎖の効率合成を達成した.また,合成した糖鎖を用いたレクチンとの相互作用解析も行った.シアル酸含有糖鎖とシグレックの相互作用をSTD-NMRにより解析した.また,コアフコースを認識するレクチン候補を発見し,SPR,STD-NMRなどによりその相互作用を解析した.さらに,コアフコースの機能制御を目指してコアフコースの生合成酵素であるFUT8の阻害剤の開発も行った.加えて,生細胞上での糖鎖が膜タンパク質の動態に及ぼす影響を調べるために,HaloTagテクノロジーを用いて合成N-グリカンを細胞表面に提示するシステムを構築法した。これを用いて種々の合成糖鎖で修飾した膜タンパク質が相互作用する分子の解析やそれが引き起こす動態変化を解析している.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,コアフコースなどN-グリカンの構造修飾による免疫制御機構の解明を目指し、SPRやNMRを用いてN-グリカンとレクチンとの相互作用を解析する。均一構造のN-グリカンを有する糖タンパク質モデルの構築法を確立させ、その細胞表層の動態解析を蛍光イメージングにより行い、N-グリカンとレクチンのネットワークにより免疫関連受容体の動態と機能が制御されるという仮説を検証する。コアフコース転移酵素Fut8の阻害剤を開発し、転移酵素阻害剤を用いた生体内の糖鎖構造の制御による免疫調節という前例の無い課題に挑む。レクチンリガンドとなるN-グリカン、Fut8阻害剤、自然免疫受容体、自然抗体リガンドとそれらの組み合わせを用いた免疫制御について検討し、新規な免疫制御法と、さらにはそれを応用したがんワクチン療法を開発する。本年度はその基盤となるN-グリカンの合成において大きな進展があった.コアフコース含有糖鎖およびバイセクティンググルコサミン含有糖鎖の効率合成を達成した.ここで用いた合成手法はその他のN-グリカンの合成にも適用可能な汎用性の高いものである.本研究において糖鎖合成が最も時間,労力がかかる過程であると予想していたが,この部分において本年度は大きく進展した.また,コアフコース認識レクチンの候補を発見したのは大きな進展である.発見したレクチンとコアフコース含有糖鎖との親和性をSPR,STD-NMRなどにより解析した.また,STD-NMRを用いたシグレックとの相互作用解析も開始した.生細胞上での糖鎖が膜タンパク質の動態に及ぼす影響を調べるための実験に関しても,HaloTag融合GPRアンカータンパク質を発現する細胞を調製し,N-グリカンを細胞表面に提示するシステムを構築法した.今後N-グリカンの機能を調べる基盤の構築に成功したと考えている.
(i) N-グリカンライブラリの構築:1年目に開発したN-グリカンの効率的合成法を利用して,本年度はシアル酸やガラクトースを含有する糖鎖を合成する.ポリラクトサミン鎖含有糖鎖の合成も検討する.ポリラクトサミン鎖含有糖鎖は化学合成による糖鎖骨格の構築後に酵素合成を用いて糖鎖の伸張を行う.なお,糖鎖伸張に用いる酵素に関しては1年目に調製を完了した.(ii) 分子レベルでの糖鎖とレクチンの相互作用解析:合成した糖鎖を用いて,シグレック,ガレクチンと糖鎖の相互作用をSTD-NMRにより解析する.また,1年目に発見したコアフコースを認識するレクチン候補と糖鎖の相互採用解析も引き続き行う.さらに,新たな糖鎖認識レクチンについても探索する予定である.(iii) 細胞レベルでの糖鎖修飾膜タンパク質の動態解析:HaloTagテクノロジーにより合成N-グリカンを細胞表面に提示し,糖鎖が膜タンパク質の動態に及ぼす影響を精査する。これまでに6種類の合成糖鎖をHaloTagリガンドに導入した化合物の合成を完了しており,これらを用いて解析を行う.種々の糖鎖で修飾した膜タンパク質を調製し、それらについて蛍光イメージングによる動態解析を行う。ポリラクトサミンやコアフコースがエンドサイトーシスを抑え、バイセクティンググルコサミンがエンドサイトーシスを促進すると報告されているので、これらの現象の再現を含め、詳細な動態解析を実施する。(iv) in vivo で利用可能なFut8 阻害剤の開発:Fut8 阻害剤の探索について、33,000 個の化合物ライブラリを用いたHigh-throughput screening を実施し、FUT8 阻害剤のファーマコフォアを発見した。現在、構造最適化を進めており、IC50 が数μMの化合物を2 個見出した。さらに構造最適化を進め、強力なFut8阻害剤を開発する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 3件、 査読あり 13件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (95件) (うち国際学会 42件、 招待講演 20件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件)
Eur. J. Org. Chem.
巻: 2017 ページ: 1365-1368
10.1002/ejoc.201700072
Chem. Eur. J.
巻: 23 ページ: 8304-8308
10.1002/chem.201701298
Natural Product Commun.
巻: 12 ページ: 247-249
Chem. Asian J
巻: 12 ページ: 27-30
org/10.1002/asia.201601357
Bioorg. Med. Chem.
巻: in press ページ: in press
10.1016/j.bmc.2017.02.036
Peptide Science
巻: 2016 ページ: 216-216
J. Org. Chem.
巻: 81 ページ: 10600-10616
10.1021/acs.joc.6b02106
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 80 ページ: 1874-1878
10.1080/09168451.2016.1189317
ChemMedChem
巻: 11 ページ: 2682-2689
10.1002/cmdc.201600446
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 35872
10.1038/srep35872.
ACS Chem. Biol.
巻: 11 ページ: 3132-3139
10.1021/acschembio.6b00674
巻: 22 ページ: 14707-14716
10.1002/chem.201602651
J. Biol. Chem.
巻: 291 ページ: 21184-21194
10.1074/jbc.M116.751271
Org. Biomol. Chem.
巻: 14 ページ: 6672-6675
10.1039/c6ob01062h