研究課題/領域番号 |
16H01892
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
澁木 克栄 新潟大学, 脳研究所, 教授 (40146163)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高次視覚野 / マウス / イメージング / 自動学習実験 |
研究実績の概要 |
本研究は、マウス視覚野の腹側経路を同定し、解析することを目的としている。霊長類では、視覚情報は、背側経路および腹側経路の2系統からなる領野によって処理される。背側経路は、視覚刺激の動きおよび空間情報を分析するために特化し、腹側経路は視覚刺激の形状および質感を処理するために重要である。しかしマウスでは、一次視覚野(V1)とそれに隣接するいくつかの皮質領域の性質が調べられているが、マウスの腹側経路の全体像は、まだ良く理解されていない。マウスの頭蓋骨は透明であり、皮質活動の経頭蓋撮像が可能である。我々はミトコンドリア由来の活性依存性内因性蛍光シグナルに基づいて、マウスにおける皮質活性を調べてきたが、高次視覚野と思われる部位の内在性蛍光応答は弱く、特に覚醒マウスでは、活性依存性の血流応答に強く影響される。そこで我々は、皮質興奮性ニューロンにおいてG-CaMP8を発現する覚醒マウスにおける視覚反応を調べた。特に今回、動く視覚刺激をもちいたところ、POR(postrhinal cortex)およびECT(ectorhinal cortex) の二箇所が明確な視覚的応答を示した。 PORおよびECTにおける網膜地図は、V1と比較して明確には観察されず、PORおよびECT応答は、視覚刺激のサイズを変化させてもV1ほど明確に応答強度を変化させなかった。 またECTでは、異なるサイズの視覚刺激がECT内の異なる部位を活動させた。これらの知見は、マウスの腹側経路が聴覚野の腹側にあるECTまで及ぶこと、およびPOR、ECTの応答はV1の応答とは明確に異なる特性を有することを示している。また、霊長類の腹側経路との共通性があるものの、動く刺激に応じやすいなどの性質はマウス独特であり、霊長類とげっ歯類の生物学的な違いを示しているものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
興奮性ニューロンにおいてG-CaMP8を発現するマウスの覚醒イメージングを用い、単純な視覚刺激だけで高次視覚野を容易に可視化できることを見出した。また、PORやECTなどの性質を、マクロイメージングを用いて詳細に解析し、同じマウスのV1や霊長類の腹側経路との違いを明らかにしたのは、大きな進歩である。しかし、マクロイメージングで応答を見出したにもかかわらず、二光子顕微鏡による観察では、ニューロンの細胞体を捉えることが出来なかった。AAVベクターなど別の手段によって、ニューロンを可視化するなどの手段を検討していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
我々はこれまでマウスの図形認知機能はM字型の迷路を用いて研究してきた。この方法では、図形の短期記憶や、図形と音の連想記憶などを解析することができる。しかし、実験者が直接マウスをハンドルして行うので、6~8匹のマウスを解析するのに一人当たり3ヶ月もの期間が必要である。そこで、マウスのホームケージに小型のディスプレイと左右二本の給水口(迷路の代用)を設け、マウスの飼育環境下で行動解析を自動的に行う装置を開発した。現在のところ、図形を提示したサイドの給水口を舐める学習(第一段階)は、数日で80%以上の正答率を示す程度にマウスを訓練することができている。第二段階として、特定の図形と報酬との関連性を覚える学習も、一週間程度で80%以上の正答率を示すまでに訓練できるようになった。しかし、ある図形から別の図形に変化した(あるいはしない)場合を認知して応答する第三段階の学習は、マウスのパフォーマンスが低く、成績も不安定である。今後学習方法を改良して、実験者が直接行う迷路学習以上のパフォーマンスを示すようにしていく必要がある。
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