我々は、音と密接に結びついている視覚刺激(例えば人物の顔など)を見ると、特徴的な音刺激(例えばその人物の声)を思い出すことができる。このような時、視覚刺激の提示によって、音刺激をコードする聴覚野応答(連想聴覚野応答)が誘導されると予想される。我々のこれまでのマウスの行動実験で、音刺激と視覚刺激の組み合わせに受動的に曝露させると、視覚と聴覚の連想記憶が形成されることが判明している。そこでマウスを飼育ケージに入れ、ネコの鳴き声を模倣した人工音と、同心円または星型の視覚刺激の組合せに曝される環境下で2-3週間飼育した。このような組み合わせ刺激下での飼育後、マウスを麻酔し、同心円または星型の視覚刺激を与え、聴覚野の応答をフラビン蛋白蛍光応答で観察した。視覚刺激に対する皮質応答を観察すると、視覚野応答は大きいが、聴覚野での応答は小さく、明確に連想聴覚応答として同定することができなかった。しかし、連想づけに用いた視覚刺激(例えば同心円または星型)と、対照の視覚刺激(例えば星型と同心円)に対する応答の差分を計算し、複数のマウスのデータを平均加算する処理を行うと、視覚野の応答がキャンセルされて消え去り、前聴覚野を中心にびまん性の聴覚応答を記録することができた。組み合わせ刺激に暴露していないマウスでは、同様の聴覚野応答は記録されなかった。興味深いことにネコの鳴き声のような複雑な音を連想記憶の形成に用いた場合には連想聴覚野応答が観察されたが、純音のような単純な音を用いた場合は観察されなかった。また逆に視覚刺激も同心円や星型のような複雑な視覚刺激を用いた場合に連想聴覚野応答が観察されたが、縞模様のような単純な音を用いた場合は観察されなかった。これらの結果は、音刺激や視覚刺激の特徴となる刺激の複雑さが連想記憶の形成に重要な役割を持っていることを示唆している。
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