研究課題/領域番号 |
16H01947
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
市村 高男 大阪産業大学, 国際学部, 特任教授 (80294817)
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研究分担者 |
舘鼻 誠 日本体育大学, スポーツ文化学部, 准教授 (00384678)
七海 雅人 東北学院大学, 文学部, 教授 (00405888)
鈴木 康之 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (10733272)
先山 徹 兵庫県立大学, 地域資源マネジメント研究科, 准教授 (20244692)
佐藤 亜聖 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (40321947)
桃崎 祐輔 福岡大学, 人文学部, 教授 (60323218)
榎本 渉 国際日本文化研究センター, 研究部, 准教授 (60361630)
高津 孝 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (70206770)
福島 金治 愛知学院大学, 文学部, 教授 (70319177)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 石造物 / 石材 / 技術・文化の伝播 / 九州・東北 / 琉球 / 東アジア交流 |
研究実績の概要 |
全体での研究会を2回(香川県・岩手県平泉町)、畿内石造物の調査、熊本県北部を中心とした九州の古式石造物・非日本風石造物の調査(薩摩塔調査を含む)、沖縄県の輝緑岩石造物の調査、中国福建省の調査、韓国京畿道の調査などを実施した。 香川県では凝灰岩採石場を数カ所調査し、採石された石材と残存する石造物との関係、加工場のあり方、文献史料に見える石材産地とその管理者の問題について検討した。平泉では12世紀後半の平泉型宝塔・五輪塔、周辺に残る12世紀半ば~13世紀前半の五輪塔などを調査し、畿内に先行する平泉石造物の起源について検討した。 九州では、熊本県八代市・玉名市、福岡県大牟田市・大川市など非日本風石造物の調査を実施、それらが東アジア海運と関わる港湾周辺に集中することを確認した。玉名市では近世初頭の唐人墓を調査し、八代市では大型層塔の実測を行い、大牟田市では大陸風装飾を持つ石造物について、三次元画像復元調査を試行した。 沖縄県では、輝緑岩石造物の調査を進め、県立埋蔵文化財センター・那覇市立壺屋焼き物博物館収蔵の石厨子、円覚寺・首里城正殿の礎石、玉御殿屋上の石獅子などを精査、那覇市福州園では、輝緑岩石材が福建省福州で採石された可能性が高いことを突き止めた。 中国では福建省厦門・泉州で調査を実施、国際港湾都市泉州に残るイスラム墓が、沖縄の石厨子と形態的類似性を持つことを確認した。韓国では京畿道中心に調査を行い、高麗期以降の石塔の簡略化によって中世日本の石造物との形態的類似性が現れること、韓国では中国起源の宝篋印塔が定着しなかったことが判明、その一方で日本型宝篋印塔と酷似する石塔部材が残存することから、半島の影響という視点に加え、日本から半島に与えた影響も考慮する必要性が出てきた。また、韓国の浮屠と酷似する石塔部材が沖縄でも確認され、半島と琉球間の南北交流を重視する必要性が高まってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内の石造物調査は、古式石造物と非日本的石造物に着目し、九州・東北・西日本海沿岸を同じ比重で進めてきた。その過程で調査対象となる石造物が九州西海岸に集中することが判明し、九州西海岸に重点を置いた調査を実施するようにした。その結果、これまでよりも研究目的に沿った調査が進展するようになった。また、三次元画像復元を試行し、大型石造物や複雑な装飾のある石造物の調査効率を上げることに努めた。 東北・西日本海沿岸では、該当する事例がある程度限定されるため、主要な事例の調査を短期集中的に行うのが効果的であること、関東に残る九州型石造物については、畿内・九州の石塔に詳しい関東の研究者に調査を委託しても対応可能であることが分かった。 沖縄県の調査では、首里・浦添に残る輝緑岩石造物の過半を把握できたので、その補足調査と今帰仁など沖縄本島中北部の調査を進めれば、全体像を捉えられることが判ってきた。シーサーの源流となる石獅子も、15世紀には登場することが判明した。 海外調査では、中国浙江省・福建省に入り、薩摩塔や宝篋印塔の源流となる石塔の調査と、沖縄に搬入された輝緑岩石造物の調査を実施した。さらに宝篋印塔の源流となる石塔の調査も実施し、日本と朝鮮半島への伝播後、日本では広く造立されたのに対し、半島では定着しなかったことが判明、国や地域による文化受容のあり方の違いが見えてきた。薩摩塔の源流となる石塔については課題を残しているが、中国由来の石獅子が寧波経由で伝播し狛犬になる日本、福州経由で伝播しシーサーになる琉球という、伝播ルートや受容する国・地域によって、用途や形態に相違が生まれることも明らかになりつつある。 韓国の調査では、多重石塔と日本の層塔との関係を検討し、両者の関係が希薄であることが判ってきたが、高麗期以降の事例や浮屠を調査対象に加えると、日朝・日琉関係の考察に可能性が拡がることが判った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、引き続き九州・東北・日本海沿岸の古式石造物や大陸的要素を持つ石造物の調査を進め、可能な限り図面化(三次元画像復元の方法を駆使する)をはかり、のちに検討しやすい環境を整えていく。今年度の調査対象地域は、昨年度に引き続き熊本県・福岡県南部など九州西海岸地域であり、必要に応じて東北と西日本海沿岸でも短期集中的に調査を実施する。 沖縄での調査も継続し、輝緑岩石造物の受容者が尚氏一族と重臣層に限定されることを確認しつつ、石獅子がシーサーに変容する過程についても検討する。調査地域は、那覇・首里から今帰仁など中北部にも拡大する。 中国の調査は、輝緑岩石造物の石材が福建省福州周辺で産出する可能性が高まったので、採石場や現地に残存する中世石造物の探索を進める。合わせて、薩摩塔の源流の探索や、九州西岸に残存する大陸風要素を持つ石造物との比較・検討も試みる。 韓国では、多重石塔に加え、高麗期以降の簡略化した多様な石塔や、特徴的な形態持つ浮屠に注目して調査を進める。そのため昨年同様、韓国京畿道在住の韓国石造物研究者の案内と教示をお願いし、効率のよい調査になるよう心掛ける。 本年度は研究計画の3年目となるので、中間の総括を兼ねたシンポジウムを奈良市の元興寺文化財研究所で開催し、これまでの調査・研究成果を再確認するとともに、残された課題を明らかにする。それによって、次年度以降の調査・研究の筋道を付け、スムースな調査が進められるよう調整する。 また、この2年間の調査・研究会を通じて、メンバーそれぞれが成果をあげていることや、各地で協力をお願いした方々の貴重な成果に注目し、それらを集約した論文集を刊行し、広く学界に提示できるように努める。執筆者や内容構成は確定し、出版社もすでに決定しているので、本年晩秋~冬頃の入稿を目指し、次年度の比較的早い時期に刊行できるようにしたいと考えている。
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