研究課題/領域番号 |
16H01948
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山田 重郎 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30323223)
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研究分担者 |
沼本 宏俊 国士舘大学, 体育学部, 教授 (40198560)
柴田 大輔 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40553293)
西山 伸一 中部大学, 人文学部, 准教授 (50392551)
池田 潤 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60288850)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 古代西アジア / 楔形文字 / 考古学 / アッシリア学 |
研究実績の概要 |
本研究は、前18世紀のサムシ・アッドゥの政治的統一後、上メソポタミアが複数の政治勢力に分有される状況をへて、前8世紀に再びアッシリア帝国の行政組織内に統合されるまでの期間を対象とし、文献学と考古学が協働して当該地域の政治的・社会的・文化的変遷の諸相を解明することを目的にしている。本年度も、4つの研究班が連携しつつ以下の研究を実施した。 (1)「テル・タバン文書研究班」:中アッシリア時代の建築記念碑文・行政文書・書簡に見られるデータを収集分析し、タベトゥ市の信仰と祭儀について明らかにする論文を出版し、特に前11世紀のマリ国の王アッシュル・ケタ・レーシェル2世の建築碑文とそこに反映された政治的状況についての分析を進めた。また、古バビロニア時代の書簡資料に注目し、古バビロニア時代のタバトゥム市の部族的ルーツと文化的特徴が、先行するマリ王国の系譜に連なることを示した(論文出版)。(2)「テル・タバン考古学研究班」:テル・タバン出土の土器資料の整理を継続するとともに、中アッシリア時代の大型建物の階層的発展と墳墓の構造分析をすすめた。(3)「エマル文書研究班」:エマル文書に見られるUGULA.KALAM.MA「地の監督官」という官職に注目し、ヒッタイトのエマルに対する政治的・社会的影響を分析した。(4)「アッシリア帝国研究班」:アッシリアによるジャジラならびに東西辺境での領土支配を文献・考古の双方から研究した。イラク・クルド地区ヤシン・テぺ遺跡(新アッシリア時代遺構)において、昨年度行った磁気探査の結果をもとに、新たな発掘抗を開け、下市に建設された水路と見られる組織と埋葬跡を発見、分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文書研究の成果が複数の論文として報告され、各研究班の成果を共有して全体的なテーマである北メソポタミア全体の地政的状況の変化を展望する準備が整ってきたといえる。令和2年度は、最終年度にあたり、国際会議の開催を計画している。COVID-19流行等による海外渡航の制限等が深刻化する懸念があるが、その際には、臨機応変に対応する用意がある。専門的研究の遂行を担う各班においても以下のような研究上の進展が見られている。 (1)「テル・タバン文書研究班」:古バビロニア時代から中アッシリア時代のテル・タバンとその周辺における地政学的環境についての理解が進み、ハブル川下流域、バビロニア、アッシリア、アムル系・アラム系遊牧集団との関係についての認識も深まっている。(2)「テル・タバン考古学班」:土器資料の記録が継続的に進展し、大型建物の階層的発展の理解も進んできており、報告書のとりまとめに向けて前進している。(3)「エマル文書研究班」:特にエマルとヒッタイトの関係についての研究が進み、複数の論文が出版された。(4)「アッシリア帝国研究班」:新アッシリアのシリアにおける交易基地の掌握とギリシア人との関係についての論文がまとめられたほか、ジャジラや東部辺境における政治的展開についての研究が複数進展している。また、考古学的研究では、アッシリア帝国の東部辺境の拠点遺跡であるヤシン・テぺ遺跡において、地中探査結果に基づく新たな発掘が実施され、下市に広がる水路システムと見られる遺構が明らかにされるなど、重要な成果があり、これまでに発見された大量の金属器・土器ならびに碑文資料の記録・分析・研究も、考古学、保存科学、文献学の協働によって進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、以下のポイントがあげられる。 (1)「テル・タバン文書研究班」:すでに開始している諸文書の個別研究は継続するが、進展している中アッシリア時代の建築記念碑文の研究を、引き続き、最優先事項として取り組む。(2)「テル・タバン考古学班」:地下墳墓を含む建物遺構の層序に関するデータを精査し、土器編年を精緻化してきたが、それを個別研究と最終報告書の両方で出版するように努める。(3)「エマル文書研究班」:王権と市民社会の関係とその変化の通時的把握を、大国ヒッタイトとエマルとの関係にも注意しながら、さらに精緻化する。(4)「アッシリア帝国研究班」:新アッシリア時代の文書史料による複数の研究(特に、ジャジラと東部ザグロス地域について)が途上であり、これを継続する。アッシリア帝国東部辺境の拠点遺跡であるヤシン・テぺの発掘調査において、重要な発見が続いており、これを基軸として、アッシリアの東部辺境での拠点形成と行政管理について、考古学と文献学の協働による新たな研究を実施することを引き続き重視する。 令和2年度は、最終年度にあたり、「上メソポタミア全体の歴史的・文化的変遷」を通時的に展望することを念頭に、国際会議開催を計画に含めている。この会議や海外調査に関連して、現在のCOVID-19流行による海外渡航や会議の自粛の必要が障害になることが予想される。こうした懸念が現実となった場合は、調査・会議計画の規模を縮小し、テレワーク等を活用するとともに、これまでの調査で蓄積した資料の研究に力を注ぐことにする。
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