研究課題/領域番号 |
16H02042
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小井土 彰宏 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60250396)
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研究分担者 |
伊藤 るり 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80184703)
上林 千恵子 法政大学, 社会学部, 教授 (30255202)
柄谷 利恵子 関西大学, 政経学部, 教授 (70325546)
塩原 良和 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (80411693)
鈴木 江理子 国士舘大学, 文学部, 教授 (80534429)
秦泉寺 友紀 和洋女子大学, 人文社会科学系, 准教授 (60512192)
昔農 英明 明治大学, 文学部, 専任講師 (20759683)
堀井 里子 国際教養大学, 国際教養学部, 助教 (30725859)
宣 元錫 大阪経済法科大学, アジア太平洋研究センター, 客員研究員 (10466906)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 移民政策 / 国際移民 / 難民政策 / エスニシティ / 国際関係 |
研究実績の概要 |
2016年度は、申請時に急激に進行したシリア等からの難民をめぐるEUにおける外部国境の管理と域内に受け入れた庇護申請者たちへの対応をプロジェクトの最大課題として取り組み、他の地域における調査に関しては、準備段階としての最新政策の動向の資料収集や予備調査の実施を行った。まず、EU共通外部国境管理の中心機関であるワルシャワのFRONTEXに小井土・柄谷・堀井・久保山の4名で、2日間にわたりリスク分析担当、緊急出動統括、人権機関との調整担当などの9名の担当官を対象に聞き取りを実施した。大量の難民の流入時における緊急的対処と加盟国間の実際の調整機能の理解と同時に、ヨーロッパ国境沿岸警備隊という実行部隊が形成されることでFRONTEXはその状況分析と戦略策定部門として機能していくという転換期にあることが分かった。堀井は、ブリュッセル、ハーグ、マルタを訪問しユーロポール、EU理事会・EU庇護支援機構(EASO)対する聞き取りで、移民送出し国・中継国との連携による難民・非正規移民のEUへの流入の抑制、難民の受け入れに関する分担金をめぐる対立の深刻化、国境管理と難民キャンプの運営に関するNGOとEU/加盟国の間の摩擦、という現状を明らかにした。また、小井土は、3月にハンガリー・クロアチア・スロヴェニアのEU外部国境3ヵ国 のUNHCR支部及び各国の研究者・NGOsを対象に調査することで、これらの国家のEU参加時期と条件が国境管理政策に対する態度に微妙な差異を生み出していること、ユーゴ内戦の経験・記憶に影響された各国の対応、密入国斡旋組織のネットワークの内戦後の発達、が具体的な難民の移動経路を規定することが明らかになってきた。久保山は、ドイツに焦点を当て、難民支援のNGO、などを訪問し、難民の統合策についての自治体レベルの対応について調査を進め、受け入れの地域での実情の解明を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から重視していたEUにおける大量難民への共通外部国境における対応と域内加盟各国における対応の分析に関して、統合EUの主要機関や国際機関での調査が順調に協力を得られ実施することができ、複数の参加者によって現地で知見が共有できたこと、さらにこれを研究会において全体に共有できたことは、本共同研究の最も重要な目的を果たしたといえる。特に、FRONTEXにおける長時間で詳細な聞き取りに加えて複数のEU機関でその方針が聞き取れたことは重要だろう。また、昔農、久保山のドイツ調査も順調で、自治体、NGOsなどによる難民統合の実践的な対応状況とその課題についてのデータも着実に獲得できた。加えて、外部国境各国における難民に関する対応については、第1にUNHCRのワルシャワ支部を起点に、ブダペシュト、ザグレブ、リュブリャーナを加えた4支部で聞き取りができ、規制機関FRONTEXとの緊張関係のみならず、国境の各加盟国との協力と緊張関係が浮き彫りにできた。第2に、クロアチア、スロヴェニアの研究者の研究者の協力を得ることで、ユーゴ内戦にさかのぼる歴史的な文脈の中で各国の国境政策が規定されていることや、「難民危機」以前からの密入国ビジネスの発達の問題まで射程に入れることができた。この両面で外部国境地帯でのフィールド調査は、当初の目標以上のものとなった。 他方、飯尾が都合により研究に参加できない期間があり、アメリカ側の規制強化のメキシコ側での影響に関する調査は当初予定より遅れることとなった。また、上林の本務校での時間的制約により海外調査は縮小せざるを得なかった。これらの課題は一時的なものであり、今後十分克服しこれらの側面でも当初計画に次年度以降目的の達成は可能だと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度中に、申請時には予想されていなかった移民政策の厳格化を唱えるトランプ政権が出現した。その影響は、直接的な実際の規制の余波だけではなく、代表的移民国家アメリカの示す理念を転換させることで他の諸国への影響も極めて大きい。このため、2017年度はトランプ政権により移民政策の実像をその唱えた方針との対比で検討するとともに、移民たちが受ける影響を地域レベルで分析する。小井土と飯尾は、最大の移民受け入れ地域であるカリフォルニア州において、移民規制の影響を最も深刻に受けると考えられる1)高学歴の非正規移民であるドリーマー層一般、2)その中でもDACAという滞在・就労の時限的許可者、3)彼らを含む多様な法律的立場の人間を内包する移民家族、を焦点にして、政権発足後の影響を聞き取り調査する。また、春にはワシントンDCで政策過程に関与する専門家から政権発足後の移民専門実務家集団との関係についての聞き取りを実施する。このような焦点のシフトの関係で小井土は南地中海に関するイタリア調査には2017年度に関しては参加しない。 オーストラリアに関して、塩原はナウル、パプアニューギニア等の領土外にある非正規移民収容施設を当初調査の予定であったが、一部施設の閉鎖と見学受入れの拒否というその後の変化に対応の必要が生じた。これに代わって、オーストラリア内部にある特定地域の振興を狙ったコミュニティに開かれた難民収容のシステムに関してフィールドワークを行う。上林は、2016年度実施できなかったベトナム調査を本年度実施することでデータを補完していく。 以上のように、大きな政治変動に積極的に対応していくとともに、実施上の困難や、本年度の時間的制約による限界に対応して、計画を修正し、研究プロジェクトの基本課題の遂行を図っていく。
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