研究課題/領域番号 |
16H02042
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小井土 彰宏 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60250396)
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研究分担者 |
宣 元錫 大阪経済法科大学, アジア太平洋研究センター, 客員研究員 (10466906)
昔農 英明 明治大学, 文学部, 専任講師 (20759683)
上林 千恵子 法政大学, 社会学部, 教授 (30255202)
堀井 里子 国際教養大学, 国際教養学部, 助教 (30725859)
秦泉寺 友紀 和洋女子大学, 人文社会科学系, 准教授 (60512192)
柄谷 利恵子 関西大学, 政経学部, 教授 (70325546)
伊藤 るり 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80184703)
塩原 良和 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (80411693)
鈴木 江理子 国士舘大学, 文学部, 教授 (80534429)
毛利 さとみ (惠羅さとみ) 成蹊大学, アジア太平洋研究センター, 主任研究員 (10535165)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会学 / 国際移民 / 外国人労働者 / 移民政策 |
研究実績の概要 |
2017年度は、アメリカ合衆国に関しては、トランプ政権の不明確で一貫性のない政策が与える影響について、7-8月に小井土・飯尾で高学歴非正規移民層の若者(ドリーマー)に対し彼らのライフヒストリーについての聞き取りを18人に実施するとともに彼らの組織集会を参与観察した。また、小井土は並行して数年前に就労現場で検挙された非正規移民のその後の生存戦略の変化を調査した。さらに、3月には強制送還からの「一時的保護身分」(TPS)が現政権で廃止されることへの中米系移民を中心とした反対運動を調査した。 堀井は、2017年春の調査結果の分析に集中し、EUにおいて2015年度に到着した難民に関する共通振り分け政策EU relocation schemeは、2017年度現在実効性を失い、振り分けに応じた国とこれを拒否をした加盟国間での緊張が高まり続けていることを明らかにした。昔農は、ケルンを中心に聞き取りを行い、同市で起こった「難民」の婦女暴行事件が関係機関や市民にどのような影響を与え、世論空間の変動を生み出したかを調査した。秦泉寺は、地中海ランペドゥーサ島における難民収容施設をはじめとする関係機関を訪問し、また島の居住者への聞き取りを通じて、島自体の観光地化と難民漂着の増加という矛盾した状況を作る社会的緊張を分析した。宣は、韓国安山地区の自治体、雇用安定センター、支援団体を中心に聞き取りを行い、特例雇用許可制度の形がい化や多文化政策と住民の疎隔について確認した。恵羅は、ホーチミン市で建設労働を中心とする人材送り出し機関を訪問し、3月には、上林とともにハノイ市において実習生訓練機関を視察し、その運営について調査する中で高度人材資格の利用が拡大している趨勢を発見し、その変化を分析した。鈴木は、人口減少の進行する山陰地方における移民定住化のための就労と住宅についての施策の現状を島根・広島県で調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度の調査はおおむね良好に進捗した。アメリカ合衆国の調査においては、短期間のうちに支援団体や関係諸機関だけでなく、通常接触することが困難な多数の非正規移民本人やその家族に直接聞き取りが可能となり、厳しい政治環境下にもかかわらず用意した質問事項への回答を得ることができた。ドイツにおける難民政策においても、現在日本国内ではケルン事件への関心が低下している中、接近の難しい住民へのインタビューも含めて実現できたことは極めて意義があったと考える。イタリア・ランペドゥーサ島での現地調査も、現地の多くの漂着箇所や難民犠牲者の記念物を視察しつつ生の声を拾い上げることで、漂流の映像化されたイメージのみに照準した議論を超えるその後の受け入れの実情への接近を可能にした。また、韓国調査では、ソウルの南西の工業都市安山の諸組織からの情報により、職場の間の異動と定着性の低さが課題として浮き上がってきた。 一方、日本に関連する調査では、ベトナムにまで足を延ばし、オリンピック・ブーム下の建設現場の背後にある、日本側業者により設立された訓練施設の機能を実際に確認できた。日本の地方調査においては、鈴木の努力により従来外国人住民研究でカバーされてこなかった人口減少下の山陰地方の多くの自治体や関係機関が積極的に状況や政策課題を語ることで、外国人労働者の導入が自動的に問題を解決するのではなく、有力な生産拠点などの引き付ける力の作用により、今後は日本の地域間の競争により過疎化が進行した地域が先に受入れた外国人すら失う可能性が明らかになった。さらに、全国自治体に対して質問用紙調査を行った報道機関の理解を得て未処理の第1次データの提供をうけ、その分析方法を検討中である。以上、2017年度では、各社会に内在した移動を巡る境界機能と内在化の葛藤が多様な形で進化してきていることが調査から明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2018年度においては、過去2年間の成果を踏まえ、国際発信のために10月に国際シンポジウムを一橋大学で開催し、内外研究者の交流と移民政策に関心ある専門家、一般市民に研究成果を還元していく。この公開シンポジウムは「トランスナショナル化の時代における国境/境界規制」(仮題)をテーマとし、キーノート・スピーカーにヨーロッパのトランスナショナル研究の第1人者のドイツ、ビーレフェルト大学のThomas Faist 教授を迎え、第1部北米パネルにニューヨーク市立大学のRobert C. Smith教授、とメキシコ北部国境大学院大学のRafael Alarcon教授、第2部EUパネルにフランス高等社会研究所のAgier教授を迎えるとともに、各パネルに科研費プロジェクトの共同研究者を配置し、各国に関する発見を海外ゲスト研究者の知見と対照することで、成果の海外発信を図りつつ、各地域研究者からのフィードバックを受ける。特に、第3部日本パネルを科研メンバーで構成して、各国移民・難民政策との比較の中で検討することで、その特殊性と現在の日本の移民・難民政策の閉塞の原因となっている矛盾点を明らかにし、国際的な視点からこれを批判的に検討していく機会として、政策革新に寄与することを狙う。 他方、調査プロジェクトの継続部分としては、久保山はドイツが2015-16年の大量の難民受け入れの後、難民庇護審査の大半が終了していることを受け、難民の非正規化/滞在正規化の状況の進展、支援状況、帰国強制とその後の出身国での状況を、NGO、福祉団体、UNHCR、政府機関への聞き取りから探る。飯尾は、北カリフォルニアにおける非正規移民の移民コミュニティの状況を調査する予定である。これを受けて報告書を作成することを開始する。
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