研究課題
本研究では、ヒトの協力社会の原動力である援助の生物的・進化的要因を解明するために、1)社会性が高いマーモセットと低いニホンザルの比較(進化的要因)、2)通常と自閉症マーモセットの比較(遺伝子異常など生物要因)、3)自閉症児の援助傾向と個人差の研究(社会性と援助の関係)を実験的に調べる。H28年度は、マーモセットが、他個体を援助するかどうかを検討し、自閉症児の実験の設定を行った。マーモセットでは、自身には報酬が得られないにもかかわらず、血縁のない他個体にまで餌をとる援助行動を示したBurkhart et al.(2007)の手続きを踏襲して、マーモセットで同様の検討を行った。隣り合わせのケージにいるサルのどちらか一方が、2種類の配分でエサがおかれた2つの板のうちどちらかを引ける状況にした。先行研究ではマーモセットが援助することが示されており、通常のマーモセットでは他個体への援助が示されると予想されるが、自閉症モデルであるバルプロ酸投与マーモセットが援助行動を示さないと予想された。このことを検討するために、母体へパルプロ酸投与し、自閉症モデル動物の作出を試した。妊娠期間は135日であるが、数個体の仔を得た。ただし、このような実験を実施するためには時間を要する。すでに生体になっている自閉症モデル個体1頭と非投与マーモセットで予備的に検討したところ、先行研究とは異なり、他個体への援助を行ったが、それでも自身にだけ餌が得られる条件のほうを好んでとった。また、むしろ自閉症モデル個体のほうが、援助行動が多かった。この結果は、むしろ自身が価値の低い餌を得ることを好まないとの「不公正忌避」を反映していると考えられる。従来の研究では、少なくともメスのマーモセットは不公平性忌避を示さないとされてきた。そのため、H29年度はまずは不公平忌避がマーモセットの雌雄で生じるかを検討する。
2: おおむね順調に進展している
予備的な実験を行い、通常のマーモセットおよび自閉症モデルマーモセットが援助を行うかをテストすることができ、この先の研究の目処がたったため。
先行研究ではマーモセットが援助することが示されていたが、予備的に検討したところ、予想したほど援助を行わないことが示された。むしろこれは、マーモセットでは示されない(メスでは)とされてきた不公平忌避ではないかと考えられる。まずはこのことを検証する。
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