研究課題/領域番号 |
16H02082
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
立間 徹 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90242247)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プラズモン共鳴 / ナノ材料 / 光電変換 / 光触媒 / 光機能材料 |
研究実績の概要 |
我々が提唱したプラズモン誘起電荷分離(PICS)現象は現在、全世界で広く研究されているが、その結果、機構などについて多くの混乱が生じ、それがPICSの学術的な理解と実用的利用を難しくしている。本研究ではこの状況を打開するため、その機構を解明し、PICSに相応しい応用を明らかにすることを目的としている。 これまでPICSについては、入射光のエネルギーを受け取った電子がn型半導体に注入される過程が注目され、主な研究対象となってきた。同時に生じる正孔の寄与についての指摘もあったが、実験的な裏付けは乏しい状態であった。しかし本研究において、昨年度までに、銀ナノ粒子を用いた場合に正孔が銀イオンとして排出される過程があることを見出した。そこで2018年度には、この正孔が関与する過程についてより詳しく調べた。銀の銀イオンへの酸化よりも複雑な酸化反応として鉛(II)イオンの酸化鉛(IV)への反応を用いた。酸化鉛の析出による反応サイトの特定も可能である。また、金ナノ粒子を用いることで、粒子の金属種が与える影響についても調べた。その結果、金ナノ粒子を用いた場合にも、電場が強く電子-正孔対が生じやすい共鳴サイトにおいて、鉛イオンの酸化が起こることを見出し、正孔の寄与が裏付けられた。 一方、従来から研究を進めている電子注入過程については、粒子間カップリングによって強い電場が生じている場合ほど、PICSの外部量子収率のみならず、内部量子収率も高いことが示された。 これらの成果を踏まえ、光アノードのみならず、光カソードについてもn型半導体/金ナノ粒子/p型半導体構造を導入することで、効率を改善できることが示された。 化合物ナノ粒子のプラズモン共鳴を利用した近赤外PICSについては、これまでに示した正孔注入型のPICSに加え、電子注入型のPICSについても、ITOナノ粒子を用いることで達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PICSにおける電子注入過程については計画通り、機構に関する知見が深まりつつある。酸化反応の過程に関しては、主に想定していたのとは異なる、正孔が局所的に反応するという機構が見出され、一般的に起こりうる過程であることを示すことができた。これを利用した、光の回折限界を超えたナノスケール微細加工技術の開発についても進行しつつある。化合物ナノ粒子を利用したPICSについても、正孔注入過程のみならず電子注入過程についても達成した。これらを総合的に考えて、当初の想定よりも重要な知見が見いだされ、計画以上に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
PICSにおける、正孔放出に基づく局所反応については、鉛(II)イオンの酸化鉛(IV)への反応以外の酸化反応についても、検討を続ける予定である。反応によって、それぞれ正孔放出機構と正電荷蓄積機構のいずれが寄与するのかを調べ、それぞれが選択される理由について検討したいと考えている。 こうした局所反応の、回折限界を超えたナノスケール微細加工への応用についても、酸化鉛(IV)の酸化析出反応などを利用して引き続き検討を行い、デモンストレーションを行う予定である。 また、p型半導体や、いわゆる正孔輸送材を利用し、それらに対する正孔注入の挙動について検討を行う。全個体型光電変換素子などを作製し、それによって評価を行う。 一方、ナノ粒子から半導体への電子注入過程についても、さらなる知見が得られるように研究を進める。銀ナノタワーを用いることで、共鳴サイトとn型半導体との距離に対する依存性について、引き続き検討する。 また、電場が強いほどPICSの内部量子収率が高くなることを明らかにしているが、この知見に基づき、光子に対する捕捉効率の高い、サイズの大きなナノ粒子と、PICSにおける半導体への電子注入の内部量子収率の高い、サイズの小さなナノ粒子を組み合わせることで、外部量子収率も高くなる系の設計と検討を引き続き行う。
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