研究課題/領域番号 |
16H02089
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 卓也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (80184927)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リボソーム / tRNA / プロテオリポソーム |
研究実績の概要 |
人工細胞の創成は合成生物学の目標の一つであり、再構築型タンパク質合成系PURE systemはその基幹システムとなることが期待されている。しかし、PURE systemを人工細胞へと発展させるためには、解決すべき問題点がある。まず、PURE system自体を、増殖特性を有するシステムへと改良する必要がある。そのために、タンパク質合成系の中心的サブシステムであるリボソームを試験内で合成する無細胞のシステムを構築する。同時に、遺伝解読の基盤であるtRNA群を試験管内転写系により、高機能な形で合成する。次の課題は機能性リポソームの作製である。分裂装置、酸化的リン酸化、物質輸送などに関与する膜タンパク質を脂質膜上に配向性を制御して合成するシステムを開発する。さらに、エネルギーシステムとして解糖系や、酸化的リン酸化を担う巨大膜タンパク質複合体であるATP合成酵素を、試験管内で合成する技術の開発を行う。 以上の目的を達成するために、28年度は以下の結果を得た。大腸菌の30Sリボソームサブユニットについては生合成因子をすべて精製に、これらの因子の存在下で、リボソームタンパク質と16SrRNAから、生理的条件でのアセンブリーに成功した。また、50Sサブニットにつては、すべてのリボソームタンパク質の発現と精製に成功し、アセンブリーの条件検討可能な段階に入っている。またバクテリオロドプシンについては、発現系を検討した結果、大腸菌での発現系の構築よりも、好塩菌からの精製の方が、大量精製可能であることが明らかとなった。またATP合成酵素については大腸菌での発現系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バクテリオロドプシンの調製は、大腸菌での発現が効率的と考えていたが、目的のタンパク量の獲得には至らなかった。実際に好塩菌からの精製により、この問題点が解決し、計画の遅れが取り戻せたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
28年度の実験を発展させ、細胞内での生合成プロセス同様にrRNA遺伝子、リボソームタンパク質遺伝子から転写・翻訳・会合の共役した無細胞システムを構築する。転写については、大腸菌由来のRNAポリメラーゼを使用することも試みる。16SrRNAについては11の修飾塩基が存在するが、これらの修飾酵素を精製し、成熟型の16SrRNAを試験管内で作製する。基本的には、会合体のタンパク質合成活性で評価するが、同時に素過程についても修飾の導入効率やリボソームタンパク質の結合効率を定量的に評価し、より高活性の30Sサブユニットが形成される条件を探索する。rRNA、リボソームタンパク質については転写ユニットとして、遺伝子群を一つのカセットに集積して、会合の効率を最適化する。同様のアプローチで50Sサブニットについても再構成を試みる。 機能を有するtRNAが試験管内で合成できれば、自己増殖するPURE systemの創成につながる。転写反応によりDNAから合成したtRNAについては、未修飾のtRNAでもアミノアシル化が可能であり、対応するコドンのみからなるタンパク質遺伝子を合成できることを示した。しかし、細胞から調製した天然型のtRNAに比べると、このtRNA群のタンパク質合成能力は一桁ほど低く、忠実度も十分とはいえない。この点を解決するために、この転写tRNA群に対して、修飾酵素を共存させて、十分なタンパク質合成活性と忠実度の高いtRNA群を作製する。特にアンチコドンの1文字目や、3’側の修飾酵素を集中的に探索する。 ATP合成酵素とバクテリオロドプシンを精製し再構成したプロテオリポソームを作製し、光照射に依存してATP合成が可能なシステムを作製している。今年度は両タンパク質をDNAからPURE systemでリポソーム上に発現させ、人工光合成細胞を構築する。
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