研究課題
血液中のエクソソームに含まれるmicroRNA(miRNA) が、早期がん発見用マーカとして使用できることが示されている。しかし従来の解析装置は巨大で、設置個所が大型病院などに制限される。この問題の抜本的解決のため、本研究では生田らの新概念マイクロデバイス「化学ICチップ」を発展させ、各家庭レベルでの簡易検査が可能ながん早期発見システムの開発を行うことを目的とする。がん早期発見のためには、(1)血中エクソソームmiRNAの精製、(2) qRT-PCRによるmiRNAの定量が必要である。昨年度は、(2) の途中課程である、RT-PCRによるmiRNAの逆転写反応、及び増幅を可能とするマイクロデバイスの開発に成功した。本年は、新たに蛍光観察モジュールの開発を行い、(2) の全系を可能とするマイクロデバイスの開発に成功した。蛍光観察モジュールは、当研究室の独自手法であるマイクロ光造形法により作製し、デバイス全系の大きさは、5.5 cm×2.5 cm×2.5 cmの小型サイズである。本デバイスはデバイス本体だけでなく、システム全系のポータブル化に成功している。また、薄膜フィルムのホットエンボス加工技術を確立し、厚さ100マイクロメートルのリアクタチップ開発にも成功した。本チップの透過率は80%を越え、蛍光観察時の検出感度の向上に貢献している。本デバイスを用い、肝臓がんマーカになりうるmiRNAの、qRT-PCRによるリアルタイム観察、及び定量発現解析に成功した。また、本デバイスで検出可能なmicroRNAの発現レベルは、早期がん段階の患者の血中エクソソーム内に含まれるmiRNA濃度を大きく下回り、本デバイスによるがん早期発見は、十分可能である事が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、2年目までに上流反応である(1) 精製チップの開発、及びqRT-PCRシステムとの統合を行う予定であったが、装置の故障などの原因により、到達できていない。しかし、当初の3年目の計画であった、「大量生産を目指した熱成型プロセスの開発」については、薄膜フィルムのホットエンボス加工技術を確立する事により、既に達成している。本加工技術により低コストかつ安定した、極めて実用的なリアクタチップの開発が可能である。以上より、研究計画におおむね沿った進行を行えている。
精製システムの開発と、qRT-PCR工程とのシステム統合従来,血中エクソソームからのmiRNA の精製には超遠心が用いられてきたが、大型かつ高額の装置であり、分離時間も要するため、家庭用さらにはポータブル化を目指すには根本的に異なる原理の精製手法が求められる。そこで我々は、大型装置や外部装置は不要な、全てがマイクロチップ内で完結する精製システムの開発を行う。また、これまで開発してきたqRT-PCRチップと、精製チップとの統合を行う。
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