研究課題/領域番号 |
16H02095
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 雅明 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (30192636)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピン / 強磁性半導体 / スピントロニクス / トンネル接合 / 狭ギャップ半導体 / ヘテロ構造 / 量子井戸 / 転移温度 |
研究実績の概要 |
(1) III-V 族系スピン機能ヘテロ構造材料の開発: 1) GaMnAs超薄膜・量子井戸を含む共鳴トンネル素子を作製し、本研究チームが開発した強磁性半導体の共鳴トンネル分光法を用いて、価電子帯と不純物帯の電子状態、量子効果を明らかにした。 2) 共鳴トンネル分光により、磁性不純物MnをGaAs中に添加してその濃度を増加させた際に、半導体の強磁性転移に伴い電流を担うキャリア(正孔)の散乱が抑えられコヒーレンスが増大する特異な現象を観測した。この結果は、電子や正孔の散乱が強く高速動作が難しいとされてきた磁性不純物を含む半導体を用いて、高速で動作する量子スピントロニクスデバイスを実現する可能性を示している。 (2)IV 族系スピン機能ヘテロ構造材料の開発とデバイス応用: IV族強磁性半導体GeFeを作製し、IV族で最も高いTc(220K)を観測した。また、Fe濃度揺らぎにより、室温強磁性をもつナノスケールドメインが存在することを見出した。 (3)狭ギャップ半導体スピン機能ヘテロ構造材料の開発とデバイス応用: 1)n型強磁性半導体(In,Fe)As/p型InAsからなるエサキダイオードを作製し、トンネル分光により、(In,Fe)Asの伝導帯に大きなスピン分裂(30-50meV)を観測した。III-V族強磁性半導体の伝導帯に大きなスピン分裂が見出されたのは初めてで、スピンバンドエンジニアリングに適した材料であることを示す結果である。 2) p型強磁性半導体(Ga1-x,Fex)Sb(Fe濃度xは最大25%)の作製に成功し、様々な構造評価と物性評価から真性の強磁性半導体であること、TCが340Kに達することを示した(Appl. Phys. Lett.のFeatured Articleに選ばれた。また、APL in Newsに掲載され、2016年で最も読まれた論文にランクインした)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
III-V族、IV族、および狭ギャップ強磁性半導体とそのヘテロ構造のすべてにおいて、材料物性および機能開発の研究を行い、大きな進展を得た。GaMnAsの強磁性転移に伴い電流を担うキャリア(正孔)の散乱が抑えられコヒーレンスが増大するという発見、GeFeにおいてIV族で最も高いTc(220K)を実現、さらにFe濃度揺らぎにより室温強磁性をもつナノスケールドメインが存在することを見い出した。狭ギャップ強磁性半導体においては、n型(In,Fe)Asの伝導帯における大きなスピン分裂の発見と実証、p型(Ga1-x,Fex)Sb(Fe濃度xは最大25%)の作製に成功し、真性の強磁性半導体であること、TCが340Kに達することを示した。これらは世界トップレベルの大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、それぞれの材料系において、さらなる高品質材料の作製(結晶成長条件の最適化)、強磁性発現機構の解明、高品質の超薄膜・ヘテロ接合の作製、強磁性トンネル接合やスピントランジスタなどスピントロニクスデバイスに向けた機能の発現と実証に向けた研究を進める。
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備考 |
★高温強磁性半導体の論文がAPL Articles in the Newsに掲載され、2016年で最も読まれた論文の1つになった: Appl. Phys. Lett. 108, pp.192401/1-4 (2016). ★Applied Physics Express, 2016 Spotlight に選ばれました: Appl. Phys. Express 9, 123001 (2016).
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