研究課題/領域番号 |
16H02098
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
関口 康爾 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (00525579)
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研究分担者 |
千葉 大地 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (10505241)
立崎 武弘 東海大学, 工学部, 講師 (20632590)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピン波 / マグノン / マグノニクス / スピントロニクス / スピン流 |
研究実績の概要 |
初年度は研究環境の整備と、ナノスケール金属磁性体おける非電荷マグノンを可視化する技術開発と垂直磁化膜および未観測マグノンモードでのマグノン輸送実験を開始した。
ナノマグノニクス研究を加速するためには、ナノ空間で顕在化する界面効果やエッジ効果のナノ構造依存性を完全に可視化する必要がある。現在のマイクロブリルアン散乱分光(BLS)装置ではレンズ(NA=0.75)によって光を集光するため、光の波長程度が分解能(実際は250 nm 分解能)である。これにSNOM技術を取り入れて数十 nm の分解能に向上するように図っている。現時点ではSNOMとスペクトル分光の安定性を両立させることの成功には至っていないが、ソフトウエアのフィードバック安定化により空間制御は数十nmを実現しており、マグノン伝搬におけるエッジ効果をとらえることには成功した。
マグノン輸送媒体のナノ構造化には垂直磁化膜が適しているが、興味深いことに、金属垂直磁化膜ではマグノン輸送の報告がなかった。垂直に磁化を向けるための下地層(スピン軌道相互作用の強い材料)により、輸送律速を受けると考えられる。逆説的に界面を使ったスピンホール効果やスピン変換で補償すればマグノン輸送を実現する可能性があるため、Co/Pt, FePt においてスピン流を注入し、マグノン輸送の分光計測を行った。伝搬距離が短いもののスピン流による分光スペクトル変化が認められ、マグノン伝搬が確認できた。さらに、電子スピン流からのスピン変換(増幅効果)が、マグノン波数とマグノンモードによってどのように影響されるのか理解するため、これまで金属で観測されていなかったモードにおけるスピン変換効果を初めて観測し、波数依存性の実験を開始することに世界で初めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノマグノニクス研究の推進にはナノスケール構造体におけるマグノン伝搬の詳細な知見が必要となり、ナノスケール試料によりバルクでは生じない現象が現れる可能性があった。本研究でマイクロブリルアン散乱分光装置の改良をおこない、ナノ・マイクロスケールで加工した試料においてエッジ効果を明瞭にとらえることができた。このエッジ効果によるマグノニック機能の研究に着手することができた。 またこれまでマイクロメートル金属試料では確認されていないマグノンモードを検出することに成功し、世界で初めてこのモードに対してスピン流注入を行うことができた。多層膜試料を用いることでスピン変換が生じ、マグノン振幅が増加することを明瞭にとらえることができている。 マグノニクスは磁性絶縁体ガーネットによる数ミリメートルのバルク試料をつかった研究によって発展している状況である。この分野においてもバルク試料のガーネットにおいては金薄膜を利用した三端子構造によって安定的な論理演算を構築することができ、界面スピン制御の重要性を示すことができ、金属構造によるナノマグノニクスの重要性が理解できた。
以上の進捗により概ね順調という評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度で検出したエッジ効果・界面効果を用いてマグノニック機能を創出できるかの応用物性研究を行う。マグノン論理演算素子の作製にはナノスケール化が必須であるが、エッジ効果・界面効果を活用すれば従来技術で到達できない小型化が可能性と見込まれる。一方、研究技術開発の点ではSNOM技術とスペクトル分光の長時間安定性を確保するのに大きな努力を要しているが、今後この問題点を解決する鍵を探索する。
スピン変換によるマグノンの増幅効果に関して、多層膜試料の構造依存性を研究することにより増幅効果の効率を上昇させていく。 また次年度よりマグノニクス領域ではなされていない電圧によるマグノン制御に本格的に取りかかる。超薄膜Co試料のスパッタターゲットの整備や特性評価などの準備はできており、ナノ構造化と電界効果を推進し、世界初のマグノンの電圧ゲート制御を目指す。
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