研究実績の概要 |
本研究では3次元走査型力顕微鏡(3D-SFM)の高速化や環境制御機能の付加に取り組み、従来観察できなかった3次元界面構造の観察を実現することを目標としている。これまでに、既存の3D-SFM装置に以下の改良を施した。HDDをSSD6台の並列接続(RAID0)に置き換えることで、データ転送速度の上限を格段に向上させた。さらに、ガス置換機能付きの密閉型環境制御セルを設計・製作し、揮発溶媒中での計測や不活性ガス中での計測を可能とした。また、以下の実績を論文として発表した。アメリカの研究グループと共同で3D-SFMで測定した多数のフォースカーブを自動で分類する解析法の開発に成功した(Nat. Commu. 2018)。高速3D-SFMの中核を成す高速PLLのデジタル信号処理アルゴリズムに関する詳細な検討結果を報告した(Beilstein J. Nanotechnol., 2018)。液中電位計測技術と3D探針走査法を融合させ、電気二重層界面における電荷分布の3次元可視化を実現した(Nanoscale, 2018)。親水性のマイカ基板上に疎水性のグラフェンシートを分散させ、両者の上に形成される水和構造を計測し、界面構造に与える窒素および酸素ガス分子の影響について新たな知見を得た(Phys. Chem. Chem. Phys., 2018)。非特異吸着抑制能を持つ分子鎖で表面修飾されたSiナノ粒子の薄膜と水の界面構造を3次元観察し、その吸着抑制能と界面水和構造との相関を分子レベルで明らかにした(ACS Nano, 2018)。3D-SFMのこれまでの発展と、現在の課題、将来の展望などをまとめた総説論文を発表した(ACS Nano, 2018)。これらの業績は国内外で高く評価されており、実際、第15回(平成30年度)日本学術振興会賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、3D-SFMを高速化し、環境制御機能を付加することで、従来不可能だった複雑な3次元揺動構造の計測を様々な環境中で実現することを目標として研究に取り組んできた。これまでに、高速観察機能と環境制御機能については開発と性能テストまでは終了し、これから実用に移行する段階である。一方で、応用研究課題として挙げていた、ハードディスク潤滑剤や、自動車用冷却水の凍結抑制剤の3次元分子吸着構造解析については、すでに系統的な研究成果が得られており、現在論文をまとめる段階に至っている。以上の通り、当初の計画通り順調に研究は進んでいる。さらに、上記の「研究実績の概要」で述べた通り、開発した高速・環境制御3D-SFMを用いて、当初計画していた課題以外にも、様々な応用研究に取り組み成果を得ることができた。特に、グラフェン上の3次元水和構造計測(Phys. Chem. Chem. Phys., 2018)は台湾のグループと、非特異吸着抑制界面の3次元計測(ACS Nano, 2018)はオーストラリアのグループと、機械学習を用いた3D-SFM解析(Nat. Commu., 2018)はアメリカのグループと、それぞれ国際共同研究論文を発表することができた。また、3D-SFM計測について国内外の動向をまとめた総説論文をスペインの研究者と共同で発表することができた(ACS Nano, 2018)。これらの成果は当初の予定を上回るものといえる。
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