研究課題/領域番号 |
16H02114
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
奥田 太一 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (80313120)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピン分解光電子分光 / 低速電子回折スピン検出器 / マルチチャンネル検出 / レーザーマイクロビーム / ハーフメタル / トポロジカル絶縁体 / 微小ドメイン |
研究実績の概要 |
本研究課題では、レーザーを用いた微小ビームと新しい高効率スピン検出器を用いて、単一磁区に磁化できないハーフメタルなどの新奇磁性体や、表面が不均質で微小なドメインに相分離したトポロジカル絶縁体などの新奇物質群のスピン電子状態を観測しその物性を解明することを目的としている。 本研究課題遂行のためには(1)既存レーザー光を集光レンズなどにより微小ビーム化すること、(2)これまで開発してきた高効率低速電子回折型スピン検出器の多チャンネル測定化によるさらなる高効率化、の二点を実現する必要がある。特に(2)については従来シングルチャンネルでのみ可能であった電子スピン検出を多チャンネル化するため、通常の半球型電子分析器の出口に新たな電子レンズを導入し、光電子のエネルギーvs角度の二次元分布をスピン検出フィルターに照射し、反射した電子分布を再度二次元検出器で観測することのできる装置の開発を行うことが目標である。まずはスピン検出器に電子を導く前に電子のエネルギーと角度を検出する電子アナライザーの整備が必要となるが、補助金では当初予定していたアナライザーを購入することが不可能であったため既存のアナライザーを改造して代用することにした。そのためアナライザーのコントローラ電源と制御システムのアップデートを行い、現在のPCでも制御可能となるように改造を行った。並行して、光電子の二次元分布をスピンフィルターに輸送するための電子レンズの検討を、軌道計算ソフトを用いて行った。また、レーザー光の集光の準備も行い、既製の光学レンズを用いて数十ミクロン以下の微小ビームが得られることを確認した。またアナライザーを装着する真空チャンバーや試料マニピュレータについても設計・製作を行った。 次年度には検討した電子レンズおよびスピン検出部の実設計・製作を行い、実際に光電子分布を観測しながらレンズパラメータの調整等を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発するマルチチャンネルスピン検出器は、当初、同様の装置を先行して開発していた中国科学院の研究グループと共同で開発することになっていた。しかしながら特許の問題で先方からの協力を100%得ることは難しい状況になってしまった。そのため研究開始当初は進捗に遅れが見られたが、その後我々自身で行った電子軌道計算などの結果、概ね期待した装置性能が計算上は実現可能であることがわかってきている。したがって次年度はじめに予定している実際のレンズ設計・製作には予定通り着手できると考えている。 また、予算の減額により当初予定していた最新の電子アナライザーの購入はできなくなったため、予定していた±15度の広い範囲の光電子放出角度分布を一度に観測することは難しくなったが、既存の古いアナライザーを利用・改造することにより±7度での光電子角度分布の観測は可能となった。したがって少なくともマルチチャンネルスピン検出装置の実機の開発を進めていくことは可能である。 一方、もう一つの開発要素であるレーザー光を用いた微小ビームの実現については、現状で数10ミクロン程度まではすでに実現できており、この部分に関しては進捗状況は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度には初年度に行った電子軌道計算結果に基づき、実際の電子レンズの設計及び製作を期間の前半に行う。また、スピン検出に欠かせないスピンフィルター部分については我々がこれまでにすでに長年開発を行ってきている部分でありノウハウはすでに得られている。この部分についてもH29年度に設計・製作を行う予定である。真空チャンバー、試料マニピュレータについても初年度にほぼ準備できている。したがってH29年度後期には、前期に製作した電子レンズやスピン検出器などをH28年度に整備した電子アナライザーに組み込み、実際に光電子をアナライザー、電子レンズ、スピンフィルターなどに順次通して、その二次元分布パターンの様子をMCPなどの二次元検出器で観測することにより設計通りの性能が出ているかどうかを確認する。その結果をフィードバックして電子レンズの電圧パラメータの最適化を行ったり、必要に応じて設計の見直しなども行っていく。
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