研究課題
本研究課題では、レーザーを用いた微小ビームと新しい高効率スピン検出器を用いて、表面が不均質で微小なドメインに相分離したトポロジカル絶縁体などの新奇物質群のスピン電子状態を観測しその物性を解明することを目的としている。本研究課題遂行のためには(1)レーザー光を集光レンズなどにより微小ビーム化すること、(2)これまで開発してきた高効率低速電子回折型スピン検出器の多チャンネル測定化の二点を実現する必要がある。特に(2)については従来シングルチャンネルでのみ可能であった電子スピン検出を多チャンネル化するため、光電子のエネルギーvs角度の二次元分布をスピン検出フィルターに照射し、反射した電子分布を再度二次元検出器で観測することのできる装置の開発を行う。まず、(1)についてレーザー光の集光を行うためレンズシステムを導入し、レーザーを用いた角度分解光電子分光測定を実施した。試料として3つの異なる劈開面が現れる可能性がある新規トポロジカル絶縁体を用い、集光したレーザーの照射位置を試料を移動させながら観測し、異なる劈開面を区別して電子分光測定ができることを確認した。また、試料表面のマッピングを行うことにより集光されたレーザービームのサイズを大凡10ミクロンと見積もった。続いて(2)のマルチチャンネル測定について、前年度のトラブルにより遅れていた装置設計を完了し、実機の製作に取り掛かった。まず電子レンズ部分とそのレンズを超高真空に保ち、かつ外部磁場を遮断するミューメタルチャンバーを製作した。続いて、電子の軌道を180度偏向するための磁場印加装置(電磁石とヨーク)を設計製作し、その内部に入れる角型真空容器などを製作した。電磁石とヨーク部分については必要な一様磁場が実際に発生できることを確認した。電子を加速収束させるための電源についても一部改良を行い、製作を終了した。
3: やや遅れている
前年度に生じた装置設計の見直しの問題と、既存レーザーの不安定性の発生のため、進捗がやや遅れている。しかし、新たなレンズ設計と最適なレンズ性能を実現するレイトレーシングなどをH30年度に終了し、別予算で他のレーザーを導入することにより、計画はほぼ順調に進行している。レーザー光源についてはレンズによる微小スポット化に成功し、実際に微小スポットを用いた研究成果も発表した(K.Sumida et al. Phys. Rev. Materials 2, 1041201 (2018).)残りの主要な要素の設計・製作もH30年度に終了し順次組み立てを始めているところである。なお、開発中のマルチチャンネルスピン検出器とともに、通常の1次元スピン検出装置を用いたスピン分解光電子分光装置の方は稼働しているため、万が一マルチチャンネルスピン検出器の開発に時間を要したとしても研究効率は落ちるものの、研究課題の推進は可能である。
上述の様にレーザーの方の整備はほぼ終了した。やや遅れているが2019年度はマルチチャンネルスピン検出器の完成とそれを用いた物性研究を目指す。マルチチャンネルスピン検出器の各パーツはすでに完成しているため、それらを実際に組み上げて装置性能の評価へと進んでいく。高強度の電子銃を用いて、スリット状のジグを通過させた電子の像をMCPで観測しながらレンズ調整を実施していく。磁場による電子偏向部分は、電磁石のフリンジで磁場が変化するため調整が難しい可能性があるが、印加磁場は15ガウス程度と小さいのでミューメタルシールドなどを施すことによりフリンジフィールドの影響を極力抑えていく。場合によっては改造などが必要になる可能性はあるが、共同研究を行っている中国科学院のグループの装置がすでに稼働しているため、そのノウハウも取り入れながら装置を完成させる予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Phys. Rev. B
巻: 97 ページ: 205113-1~6
10.1103/PhysRevB.97.205113
Phys. Rev. Materials
巻: 2 ページ: 104201-1~8
10.1103/PhysRevMaterials.2.104201