研究課題/領域番号 |
16H02115
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
組頭 広志 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (00345092)
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研究分担者 |
堀場 弘司 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (10415292)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子井戸構造 / 角度分解光電子分光 / 強相関電子系 / 酸化物ヘテロ構造 / 酸化物薄膜 / 機能性ナノ構造 / バンド構造 / 放射光 |
研究実績の概要 |
本研究では、酸化物量子井戸構造内に閉じ込められた強相関電子が示す2次元電子液体(「金属」量子化状態)の新奇な2次元電子液体の本質を明らかにし、その知見に基づいて新たな機能を開拓することを目的としている。そのために、高輝度放射光を用いて酸化物量子井戸構造内のスピン・軌道・量子化状態を可視化する「偏光可変スピン・軌道分解角度分解光電子分光(ARPES)装置」の立ち上げ調整を行い、光電子検出器の新ディフレクター機能を用いたフェルミ面マッピングを可能にするなど、ほぼ計画通りの性能を得た。また、新装置立ち上げと平行して、既存装置をPhoton Factoryの偏光(垂直、水平、右円、左円)を切り替え可能なビームラインBL2A MUSASHIに設置し、偏光依存ARPESを用いた下記の2つの研究成果を得た。
1)量子井戸間の近接効果について調べるために、SrVO3/SrTiO3/SrVO3二重量子井戸(DQW)構造を作製し、それぞれの量子井戸における量子化状態をARPESにより調べた。その結果、単体では絶縁体である2分子層(2 ML)のSrVO3量子井戸がSrVO3(2 ML)/SrTiO3(2 ML)/SrVO3(6 ML)のDQWにおいては、金属的になる様子を観測した。このことから、量子化状態間の近接効果を用いて金属ー絶縁体転移(MIT)が誘起できる可能性を見いだした。
2)強相関酸化物VO2を用いた電界効果型トランジスタ動作時の界面電子状態について調べるために、その表面にKを吸着させることでVO2表面(界面)に電荷蓄積を行い、その電子状態変化を軟X線光電子分光により、構造変化(V-Vの2量化)を軟X線吸収分光の線2色性により決定した。その結果、電子蓄積により誘起される金属状態は従来考えられていたようなルチル型金属相ではなく、単斜晶系金属相であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SrVO3を用いた二重量子井戸構造(SrVO3/SrTiO3/SrVO3)において、量子化状態間の近接効果を用いて金属ー絶縁体転移(MIT)が誘起できる可能性を見いだした。そのため、この量子干渉効果を検証するために、バリア層に極性酸化物であるLaAlO3等を導入することで量子化準位を制御し、2重量子井戸構造によるMIT制御の可能性を検証する必要がある。また、量子物性の評価については、研究代表者の東北大学への異動のため、多少の立ち後れが見られる。
高輝度放射光の偏光性(垂直、水平、右円、左円)と光電子検出器の新ディフレクター機能を組み合わせた「スピン・軌道分解ARPES装置」は順調に稼働しており、ほぼ予定通りスピン・軌道分解ARPES実験が遂行されている。一方で、新型ARPES装置のディフレクター機能を用いて、膨大なデータが取得されるため、このデータを効率よく整理・解析するために、測定系と連動した解析プログラムを整備する必要性が出てきている。
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今後の研究の推進方策 |
高輝度放射光の偏光性と光電子検出器の新ディフレクター機能を組み合わせた「スピン・軌道分解ARPES装置」は、ほぼ立ち上げが終了し、強相関量子井戸構造に誘起される2次元電子液体状態の電子(量子化)・スピン(スピン軌道相互作用)・軌道の状態を可視化出来るようになった。そのため、今後はこのスピン・軌道分解ARPES装置による研究と同時並行して、東北大学にてこれまでに得られた知見から量子井戸構造を設計し、量子物性評価、およびデバイスの製作へと展開する。これにより、酸化物量子井戸構造に誘起された2次元電子液体の機能を探索する。
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