研究課題
本研究では、酸化物量子井戸構造内に閉じ込められた強相関電子が示す2次元電子液体(「金属」量子化状態)の新奇な2次元電子液体の本質を明らかにし、その知見に基づいて新たな機能を開拓することを目的としている。そのために、高輝度放射光を用いて酸化物量子井戸構造内のスピン・軌道・量子化状態を可視化する「偏光可変スピン・軌道分解角度分解光電子分光(ARPES)装置」の立ち上げ調整を行い、光電子検出器の新ディフレクター機能を用いたフェルミ面マッピングを可能にするなど、ほぼ計画通りの性能を達成した。また、偏光依存(垂直、水平、右円、左円)ARPESを用いた下記の2つの研究成果を得た。1)強相関酸化物VO2の金属-絶縁体転移(MIT)は、モット不安定性とパイエルス不安定性の協奏によって引き起こされると考えられている。この2つの自由度のMITへの寄与を調べるために、VO2量子井戸をTiO2基板上に作製し、その電子状態変化を軟X線光電子分光により、構造変化(V-Vの2量化)を軟X線吸収分光の線2色性により決定した。その結果、高温相のルチル金属相が臨界膜厚1.5nmで絶縁体相へと転移すること、それに伴って温度誘起MITが消失することを明らかにした。この結果から、薄膜極限におけるVO2は、モット不安定のみに起因した絶縁体であると結論づけた。2)SrVO3量子井戸構造における強相関電子のコヒーレンス長を調べるために、VをTiで置換したSrTi1-xVO3を作製し、ARPESによる電子状態評価を行った。その結果、x=0.6で擬ギャップ的振る舞いが見られ、x=0.4で完全に絶縁体に転移する様子が明らかになった。この結果を踏まえて、x=0.6で井戸幅2nmの量子井戸構造を作製したところ、量子化状態は観測されなかった。このことから、x=0.6のコヒーレンス長は2nm以下であると結論づけた。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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