研究課題/領域番号 |
16H02120
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
小栗 克弥 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主幹研究員 (10374068)
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研究分担者 |
石澤 淳 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主任研究員 (30393797)
加藤 景子 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主任研究員 (40455267)
日比野 浩樹 関西学院大学, 理工学部, 教授 (60393740)
増子 拓紀 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主任研究員 (60649664)
関根 佳明 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 研究主任 (70393783)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アト秒科学 / 量子エレクトロニクス / 時間分解ARPES / 人工二次元結晶 / 固体高次高調波発生 |
研究実績の概要 |
平成29年度研究実施計画に基づき、【課題1】アト秒スペクトロスコピー技術による人工二次元結晶電子系アト秒ダイナミクスの解明、に関して以下の2つの項目を重点的に実施した。 (課題1-2) 人工二次元結晶アト秒ダイナミクス-TR-ARPESのプローブ分解能評価 昨年度構築した20 fs近赤外パルス励起27次高調波ベースの時間分解角度分解光電子分光(TR-ARPES)系を用いて、グラフェン及びグラファイトの二次元結晶のダイナミクス計測を重点的に実施した。本年度はまずTR-ARPESで最も重要な性能指標である高次高調波プローブの時間幅をグラファイトにおけるキャリア光励起過程を計測することにより評価した。その結果、最大でも5 fsであることが確認でき、20fsレーザ励起であっても27次といった高次数を選択することにより、極めて高いプローブ分解能を達成することに成功した。また、本装置を用いてn型SiCエピタキシャルグラフェンのTR-ARPES計測に成功し、極めて高いプローブ分解能を用いることによって、電子系が熱平衡に達していない状態(非熱的分布)を捉えた。 (課題1-2)人工二次元結晶アト秒ダイナミクス-グラフェンの時間分解反射率計測 上記課題と並行して、二次元結晶を10 fs近赤外パルスを用いた時間分解反射率計測実験を進めた。TR-ARPESでは、電子状態を直接観測することが可能であるが、時間分解反射率計測では、光学応答を通した電子状態の間接計測が可能である。同じサンプル系を異なる手法で計測し、比較することによって、より包括的な理解が可能である。その結果、反射率変化において、励起最初期の電子分布が電子-電子散乱により30 fs程度でくずれ、さらに電子-格子散乱で熱的分布に落ち着き、格子温度の冷却とともに元の状態に戻るまでのダイナミクス計測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度構築したサブ5fs高次高調波ベースのTR-ARPES系は、現在、世界最短プローブ時間分解能を有することが時間領域計測により明らかになったことから、研究進捗は概ね順調であると自己評価している。本研究計画で目指すべきATTO-ARPESで本質的に重要な装置仕様はプローブ時間分解能であることから、今年度の結果は、その実現に向けて大きな足掛かりを得ることができたと言える。ATTO-ARPESの実現は、昨年度実現したサブ2サイクルパルス(パルス幅約4 fs)の近赤外パルスでアト秒パルスを発生させ、その時間応答を評価することで実現可能である。また、本装置を用いてカーボン系二次元結晶材料の光励起過程ダイナミクス計測も順調に進展している。PHz電子応答の計測は、ポンプ光照射時の散乱にほとんど影響されないコヒーレントな励起状態を計測することに対応するが、現時点の装置において、電子の比熱的分布を捉えることができていることにより、その実現も視野に入ることができた。また、昨年度データを得ることができたサファイア結晶におけるアト秒吸収分光実験の成果がネイチャーコミュニケーション誌に掲載され、報道発表したことや、Tr-ARPESの関する国際会議発表でベストポスター発表賞やベスト学生発表賞を受賞するなど対外発表においても順調に成果を積み上げている。 一方、今年度は、【課題2】ペタヘルツ応答デバイスの動作原理の実証として、2年目以降に計画していた固体高次高調波発生によるペタヘルツオシロスコープの実験については、上記で記した課題1が予想より順調に進展したため(20fs励起によってもプローブ分解能がサブ5fsであることを実証したこと)、さらに優先して実施するように計画を変更した。そのため、Tr-ARPESで必要な中赤外用分光器を購入するなど柔軟に研究計画・研究の優先順位などをアップデートした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度までに構築したTr-ARPES装置を用いた人工二次元結晶の超高速分光を継続的に実施しながら、【課題2】及び【課題3】を進捗させる。 (課題1-1)昨年度、20 fsレーザ励起27次高調波を光源という比較的長いパルス幅の基本波用いても世界最短プローブ分解能を実現できていることから、今年度は本システムを用いた人工二次元結晶電子ダイナミクスに注力するとともに、中赤外パルスとの組み合わせシステムの実現及びアト秒時間分解能への拡張を行う。 (課題1-2)グラフェン、MoS2、WSe2、BNといった人工二次元結晶において、これまでほとんど計測できていない光電界周期スケール電子応答のTr-ARPES実験を幅広く実施する。特に、強い中赤外パルス光と組み合わせることによって、光電界で駆動されたバンド内電子輸送のARPES計測を世界で初めて実現させ、電界によって電子を駆動可能であることを波数-エネルギー空間動的マッピングによって示すことを目指す。 (課題2-1)昨年度導入した6 fsパルス幅CEP制御周波数コム光源を用いて、電界駆動電流発生実験(ペタヘルツトランジスタ)を開始する。 (課題2-2)平成29年度は、固体高次高調波発生実験系の構築に注力するとともに、複合型システムを用いて媒質である水晶薄膜のサブ5 fs高次高調波時間分解吸収分光の予備実験を実施した。本実験では、固体高次高調波発生過程を吸収分光の視点からダイナミクスを捉えることに着目しており、今年度は引き続き本実験を継続すると共に、水晶単結晶並びにグラフェンを用いた固体高次高調波発生実験を実施する。 (課題3)課題1-1で記した中赤外パルス発生は光パラメトリック増幅(OPA)を利用する。今年度は、課題1-1に注力することと並行して、OPAを利用した多色パルス合波実験を並行して開始する。
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