研究課題/領域番号 |
16H02127
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阪部 周二 京都大学, 化学研究所, 教授 (50153903)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高強度フェムト秒レーザー / レーザー電子加速 / 表面波 / テラヘルツ波 / 電子光学 / レーザープラズマ / レーザー放射線 |
研究実績の概要 |
超高強度短パルスレーザーを固体標的に照射した際に瞬時に流れる巨大電流により誘導される電磁波を、標的近傍に設置した金属固体表面に流れる表面電磁波に変換し、この表面電磁波がレーザー生成加速電子を誘導や集束する電子光学素子として機能することを実証し、高強度レーザー駆動小型電子光学素子の可能性を検証する。つまり、本研究では、高強度レーザーと固体標的とその近傍に設置した金属素子により、電子発生・加速・伝送制御の機能をもたすことを提案し、実証することを目的としている。 高強度短パルスレーザーと薄膜標的との相互作用により発生・加速した電子が標的近傍に設置した金属ワイヤーにより誘導されることを実験的に検証した。 金属ワイヤー端にて電子の強度分布を測定した結果、レーザー加速電子は明らかに金属線方向に誘導された。その強度分布は多重リング状であり、従前のワイヤー直接照射とは異なる特異な放射特性を観察した。 薄膜標的との相互作用により、標的近傍に設置した金属ワイヤー近傍にどのような電場が形成されているか電気光学結晶を用いて調べた。その結果、数ピコ秒のパルス幅のサブテラヘルツ表面波(ゾンマーフェルト波)が誘起されていることが観察された。ワイヤーに直接照射した場合と電界の方向が異なることが明らかとなった。 レーザー加速電子による表面波誘導のダイナミックスを明らかにするために、電磁場・粒子コードによる計算機シミュレーションを実施した。その結果、レーザーと薄膜との相互作用により電子加速(大電流発生)に伴って発生した大強度電磁波の一部が近傍の金属ワイヤーに表面波として結合していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の目的達成に向けて、下記のとおり研究が進捗した。 (1)超高強度短パルスレーザーの薄膜標的への集光照射系、薄膜標的近傍への金属ワイヤーの設置位置調整系、ワイヤー端での電子測定、金属ワイヤー上の表面波測定系を構築した。 (2)レーザー加速電子の金属ワイヤーによる誘導の検証:高強度レーザーを絶縁体薄膜に45度方向に集光照射し相互作用により電子を加速する。通常、加速電子はレーザー方向に広がりをもって放射される。集光位置の薄膜の裏側に金属ワイヤーを空隙を設けて薄膜に垂直の方向に設置した。金属ワイヤーの他端において電子分布とエネルギー測定を行った。高強度短パルスレーザーと薄膜標的との相互作用により発生・加速した電子が標的近傍に設置した金属ワイヤーにより誘導されることを実験的に検証した。ワイヤー直接照射とは異なる特異な放射特性を観察した。 (3)レーザー電子加速による近傍金属ワイヤーへの表面波誘導の検証:高強度短パルスレーザーを一部分岐して、プローブビームとしてワイヤー近くに設置した電気光学結晶に導き電気光学効果を用いてワイヤー近傍の電場のダイナミックスを測定した。その結果、数ピコ秒のパルス幅のサブテラヘルツ表面波(ゾンマーフェルト波)が誘起されていることが観察された。ワイヤーに直接照射した場合と径方向電界の方向が異なることが明らかとなった。 (4)表面波誘起機構の考察:レーザー加速電子による表面波誘導のダイナミックスを明らかにするために、電磁場・粒子コードによる計算機シミュレーションを実施した。その結果、発生電場の強度の薄膜―ワイヤー空隙間隔依存性について実験と良い一致を示した。レーザーと薄膜との相互作用による電子加速(大電流発生)に伴って発生した大強度電磁波の一部が近傍の金属ワイヤーに表面波として結合していることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究により、高強度レーザーと薄膜との相互作用による電子加速が(1)薄膜近傍に設置された金属ワイヤーに表面波を誘起すること、(2)加速放射された電子が金属ワイヤーに沿って誘導されることが観察された。来年度は、これらの誘導電場(サブテラヘルツ表面波)の特性がレーザー照射や標的薄膜、誘導ワイヤーなどの諸条件によりどのように変化するかの詳細を調べ、 誘導機構の物理を明らかにする。 レーザー生成加速電子のワイヤー沿いへの集束の特性(放射空間分布、エネルギースペクトル)を詳細に調べ誘導機構の物理を明らかにする。上述で測定する誘導電場の結果を用いて、電磁場と電子線、プラズマを含む粒子コード計算機シミュレーションを実施し電子誘導の物理を議論する。 代表者らが開発したレーザー超高速電子線回折装置を用いて、電子の偏光実験を試行する。高強度レーザーと薄膜との相互作用により加速したパルス電子をパルス圧縮し、短パルス電子線を生成する。これを電子源とし、レーザー誘起表面波による偏向を実証する。
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