研究課題
加速器で合成される原子番号100を超える超重元素の化学的研究に、量子(原子、イオン)ビームの手法を導入して新たな研究の展開を図ることを目的とする。本研究では、シングルアトムレベルで合成される超重元素を低速原子ビームとして取り出す技術を開発し、超重原子のスピンを実験的に決定し、その価電子構造を明らかにする。併せて、イオンビーム法の高度化を進め、超重元素のイオン化エネルギーや金属表面への吸着挙動を調べ、価電子構造との関連を検討する。平成29年度は、前年度に整備した原子ビーム装置の組み立て製作を開始し、それを用いたテスト実験を開始した。また超重原子同位体を測定するためのアルファ線検出器の整備を行った。開発は以下の3テーマをもとに遂行した。(1)低速超重原子ビーム取り出し技術の開発:高温ノズル型原子ビーム生成装置を製作し、2800 Kまでの高温条件で安定に動作できることを確認した。この装置を用いて、Cd原子ビームの取り出しテストを行った。実験は継続中である。(2)イオンビーム生成技術の高度化:これまでの表面電離型イオン源を改良し、フェルミウム、メンデレビウムおよびノーベリムのイオン化エネルギーの測定に成功した。解析を終了し論文としてまとめを行った(投稿準備中)。(3)超重原子の金属表面への吸着:開発(2)の表面電離に用いた金属製イオン源(円筒型キャビティ)を真空クロマトグラフ装置として適用できるかを前年度に引き続き検討した。とくに吸脱着とイオン化のプロセスを仮定しながらシミュレーション計算のコード作成を行った。一方、実験的には103番元素ローレンシウムの吸着挙動の観測に成功した。今後はシミュレーションや理論計算との比較を行い吸着挙動と価電子構造の関連を議論する。
2: おおむね順調に進展している
研究実績概要で述べたように、超重原子ビーム発生装置の製作をほぼ終了し、テスト実験を開始することができた。また平成28年度にイオン化に成功したフェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウムのイオン化エネルギーを決定した。さらにローレンシウムの吸着挙動を真空クロマトグラフ装置を開発することで初めて観測することに成功した。
基本的には「6.研究実績の概要」で述べた3研究課題を継続する。(1)では、超重原子ビーム取り出し装置を用いてテスト実験を継続する。29年度に引き続きCd原子ビームの取り出しを行う。とくに高温ノズルの形状や金属ノズルの材質を検討しながら取り出し効率の高度化を図る。(2)では、より高いイオン化エネルギーが予想される超アクチノイド元素ラザホージウムのイオン化エネルギー測定に向けてイオン源の開発を行う。(3)ローレンシウムの吸着挙動を確認したので、シミュレーションや理論計算をもとに金属表面への吸着エンタルピーを求める。また他の重アクチノイド元素の吸着実験に着手する。
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