研究課題/領域番号 |
16H02151
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
俣野 博 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (40126165)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 解析学 / 関数方程式論 / 非線形偏微分方程式 / 進行波 / 無限次元力学系 / 疫病伝播モデル |
研究実績の概要 |
①【双安定型拡散方程式における衝突パルス解】 R上の双安定型拡散方程式の時間大域解で,無限遠方から発した二つのパルスが衝突して消滅するようなものが存在することを示した.単独の拡散方程式においては,空間内を移動する非負パルス解の存在はこれまで知られておらず,本研究の成果が最初の発見である(文献[1]). ②【空間1次元反応拡散方程式の定性的理論】 R上で定義された1次元反応拡散方程式の解の漸近挙動を分類する一般論を確立した.空間領域が有界の場合と違い,R上の方程式の場合は解の長時間挙動に未知の部分が多い.本研究では,交点数非増大則と「拡張ω極限集合」の概念を用いて,遠方で減衰する非負の初期値から出発した解の挙動を精密に分類することに成功した(文献[2]). ③【縞状の空間非一様性をもつ環境での疫病伝播モデル】 ブドウ畑における疫病の発生を記述する数学モデルを考察した.ワイン用のブドウ畑では,ブドウの木は縞状に整然と並んでおり,この中で発生した疫病の広がり方は,この縞状の空間非一様性に大きな影響を受ける.本研究では,任意の方向の平面状進行波が存在することを示すとともに,進行波の速度が進行方向にどのように依存するかを論じた(文献[3]). ④【空間異方的Allen-Cahn方程式における広がり波面の研究】 空間異方的な拡散項をもつAllen-Cahn型方程式に現れる広がり波面の形状がウルフ図形に収束することを証明するとともに,波面の近くでの解の遷移層のプロファイルが,局所的に平面波のプロファイルに近づくことを示した(論文投稿済み).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は,早期の完成を当初予定していなかった空間1次元反応拡散方程式の定性的理論の研究が予想以上の速さで進展し,上記の①,②の成果を年度内に達成することができた.また,上記③のテーマについても,当初の予定より早く成果が得られた.これらのテーマの研究が予想外の速さで進展したため,それらの早期完成を優先して,テーマの優先順位を一部入れ替えた. まず,28年度中に完成を目指していた④の空間異方的Allen-Cahn方程式の研究は,順調に進み,国際雑誌に投稿することができた. 一方,当初28年度中の完成を予定していたランダムなノイズの入ったAllen-Cahn方程式の特異極限問題問題と,ソボレフ臨界型非線形熱方程式における解のソリトン分解の研究は,上の①~③の完成を急いだため,当初の予定より少し遅れているが,研究は,ほぼ完成に近づいており,早期の論文投稿に向けて準備中である.
このように,テーマの優先順位について一部変更があったが,全体的には極めて順調に研究は進展している.
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今後の研究の推進方策 |
29年度以降は,まず,上で述べた臨界型非線形熱方程式の研究とランダムなノイズの入ったAllen-Cahn方程式の特異極限問題の完成を急ぐ.その後は,当初の予定通り,次の二つのテーマを重点的に研究する. (A)【捕食者・被食者系(predator-prey system)などの,比較定理が成り立たない反応拡散系における広がり波面の研究】 (B)【障害物が波面の伝播に及ぼす影響の研究】
より詳しく述べると,テーマ(B)は,「無数に穴があいた壁をAllen-Cahn型方程式の波面が通過できるかどうかの問題の研究」と,「多数の障害物が置かれた無限帯状領域を伝播する波面の研究」という二つのテーマに分かれる.いずれも,これまで全く研究が行われていない新しい研究テーマであり,さまざまな方向への発展が期待できる.とくに前者については,準備研究がかなり進んでおり,Harnack不等式,特異摂動法,変分的手法,楕円型方程式の解の特異点理論などを駆使しながら,鍵となる重要な補題はすでに得られている.この準備研究により,このテーマが,応用上重要であるだけでなく,定常波面に関するDeGiorgiの定理の一般化など,解析学上も興味深い問題と深くつながっていることがわかってきた.早い段階で,このテーマに関する最初の成果をまとめられるよう注力する予定である.
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